2017年6月16日 「千葉時代」誕生か? 極地研准教授らが国際科学連合に提案申請

〝千葉時代〟誕生か―。茨城大学の岡田 誠教授、国立極地研究所の菅沼悠介准教授、千葉大学の亀尾浩司准教授、国立科学博物館の久保田好美研究員を中心とする22機関32名からなる研究グループは去る6月7日、千葉県市原市にある地層「千葉セクション」が地質時代の国際標準模式地(GSSP)に認定されるよう、国際地質科学連合(IUGS)の専門部会に提案申請書を提出した。千葉セクションは地質時代のうち、更新世の前期と中期の境界(約77万年前)を示しており、この境界のGSSP認定に向け、千葉セクションのほかに、イタリアにある二つの地層の申請書がそれぞれ提出される見込みで、結果は年内に決着することとなっている。

IUGSでの審査の結果、千葉セクションがGSSPとして選定された場合は、約77万年前から12万6千年前の地質時代に対する名称として〝千葉の時代〟を意味する『チバニアン』を提案する。

 

競うのはイタリア2地域

地球の歴史をひもとく、つまり過去の地球環境の変遷を明らかにすることは、人類の根本的欲求であるとともに、地球環境変動の将来予測でも極めて重要。地質学では、地球上の岩石が形成された年代や生物化石等の変遷に基づいて、地球の歴史を115の時代に分けている。

また、地質時代区分を標準化するため、それぞれの地質時代境界について地球上で最も観察・研究をする上で優れた地層1ヵ所をGSSPと認定している。例えば、恐竜が絶滅した白亜紀と古第三紀の境界(約6600万年前)のGSSPはチュニジア北部のエル・ケフ近郊にある。ただし、時代区分の定義、名称や年代などは絶えず見直されており、また、まだGSSPが決定していない地質時代も存在するという。

更新世の前期と中期の境界は、これまでで最後の地球の磁場逆転が起きた時期で、まだGSSPが決まっていない境界のひとつ。この境界のGSSPとして認定されるためには、いくつかの推奨条件が提示されており、その条件のなかでとくに重要なものとして、①海底下で連続的に堆積した地層である、②地層中に、これまでで最後の磁場逆転が記録されている、③地層の堆積した当時の環境変動が詳しく分かる―の三つがあげられる。

この境界のGSSPには、房総半島の中央部、千葉県市原市の地層「千葉セクション」のほかに、イタリア南部のモンタルバーノ・イオニコ、同じくイタリア南部のヴァレ・デ・マンケの地層も候補に挙がっている。

千葉セクションがGSSPに選定されれば日本初のGSSPとなり、また、地質時代名称として初めて日本の地名が使われる。研究グループは、千葉セクションのGSSP申請に向け、推奨条件を満たすことを示すため、数年にわたり研究を進めてきた。

 

僅差の場合は決選投票

今後、IUGS専門部会が最適な候補を一つ選出する。ただし1位と2位の差が僅差の場合なら決選投票を実施。さらに、1位となった後も、国際層序委員会などで賛否を投票で確認し、60%以上の得票を得ることができれば、千葉セクションがGSSPとして登録され、この境界から約12.6万年前までの地質時代が「チバニアン」という名称になる。

過去に地磁気の逆転が起きていたという事実は、1920年代に京都帝国大学(当時)の松山規範教授が、本州や九州等の岩石を調べて発見。その後も多くの日本人がこの分野の研究をリードしてきた。

このような歴史的な背景もふまえ、千葉セクションがGSSPとして選定されることは地質学だけでなく、日本の科学史にとっても重要なこととなる。また、地質学の一般への普及や小・中・高校生などへの教育でも大きな波及効果が期待される。


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