2020年9月23日 「デジタル土壌図」に機能とデータを追加 データ活用型の土づくりの実践への貢献に期待

農研機構は、ウェブ公開中の「デジタル土壌図」に、データ活用型の土づくりの実践に役立つ機能やデータを新たに追加した。

「デジタル土壌図」は、日本全国の土壌の種類や分布が分かるもので、2017年4月より日本土壌インベントリーを通じて無料でウェブ配信が行われている。この土壌図にはこれまで15万件を超えるアクセスがあり、営農指導などの現場で広く利用されている。今回の新機能やデータの追加は、その利便性を高めるために実施された。

新機能「土壌有機物管理ツール」では、土づくりの指標となる土壌有機物の増減を、各地点のたい肥等の有機質資材の投入量等から簡単に計算することができる。また、新たに追加されたデータベースは、「全国約200地点の土壌温度・水分の日々推定値」、「全国約3500地点の土壌断面調査データベース」、「国際土壌分類方法に準拠した全国デジタル土壌図」の3つ。さらに、活用事例をまとめた「デジタル土壌図活用マニュアル」も作成・公開されている。

 

活用が広がる「デジタル土壌図」

農研機構は、日本全国の土壌の種類や分布が分かる「デジタル土壌図」を作成し、2017年4月よりウェブサイト「日本土壌インベントリー」を通じてウェブ配信してきた。この土壌図には、これまでに15万件を超えるアクセスがあり、営農指導や土づくりなどの現場でも土壌データの利用が広がっている。

一方、生産現場ではデータをフル活用して、有機肥料の投入量を適切にコントロールすることで、コスト削減を図りながら、余剰養分の放出による環境への悪影響を防ぐことができる土づくりの実践が望まれている。

土づくりの現場では、一般的にたい肥等の有機物を施用して、土壌中の有機物の量を維持する管理が行われており、農林水産省の地力増進基本指針の中でも、土壌中の有機物含量についてその維持すべき目標値やたい肥の種類、地目・土壌分類ごとの標準的なたい肥施用量が定められている。

これまで農研機構では、「土壌のCO2吸収見える化サイト」で農耕地への有機物施用量から土壌中の炭素量の増減を計算し、土壌の二酸化炭素(CO2)吸収量として示すウェブサイトを公開してきた。しかし、土壌の物理性改善や養分保持などと密接に関係する土壌有機物含量の増減量は示していなかった。

また、これまで日々刻々と変化する土壌温度・水分量のデータは全国的に整備されておらず、こうした環境データを活用した施肥管理技術(緩効性肥料の肥料成分溶出パターン把握等)や、潅水支援技術の普及には至っていなかった。

こうした社会的背景を基に、今回、データ活用型の土づくりや施肥管理に役立つ新機能やデータベースが「デジタル土壌図」に追加された。

 

 データ活用型の土づくりや施肥管理に 役立つ新機能やデータベースを追加

〔土壌有機物管理ツール〕

土づくりの指標となる土壌中の有機物含量が、たい肥の施用によってどの程度変化するか計算できるツール。土壌図上で地点を選択して、栽培する作物、たい肥等の施用量、緑肥作物などの情報を入力すると、土壌有機物含量の年間増減量を計算することができる。

土壌中の有機物を増やすことは、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を土壌中に貯留することにつながり、地球温暖化の緩和に貢献できる。このツールでは、土づくりの副次的な効果としての土壌中へのCO2吸収量も計算できる。

〔全国約200地点の土壌温度・水分の日々推定値〕

全国約200地点における深さごと(深さ1cm、5cm、10cm、20cmの4深度)、1日ごとの土壌温度と土壌水分の平年推定値。約200地点の位置は気象庁による気象観測地点に対応している。このデータは、緩効性肥料や施用有機物の肥料成分の溶出パターン把握などへの活用が期待できる。

〔全国約3500地点の土壌断面調査データベース〕

深さ約1mまでの土壌層位ごとの土壌特性値等を閲覧できる。これらの情報は、施肥設計や栽培管理等に活用することができる。各データは断面調査を行った時点(約25~60年前)の分析値であり、その後の土壌管理により多少の変化が見込まれるが、礫含量、粒径組成、塩基置換容量(CEC)、リン酸吸収係数などの土壌特性値は土壌管理による変化は比較的少ない数値であり、現状の近似値として参照できる。

〔国際土壌分類方法に準拠した全国デジタル土壌図〕

国連食糧農業機関が作成した世界土壌資源照合基準に準拠した、縮尺20万分の1相当のデジタル土壌図。日本で広く用いられている包括的土壌分類体系第1次試案によるデジタル土壌図と並べて表示させることで、土壌分類名の国際対比を行うことができる。

〔デジタル土壌図活用マニュアル〕

日本土壌インベントリーや、そのスマホアプリである「e‐土壌図Ⅱ」の使用方法やデジタル土壌図の活用事例をまとめたマニュアル。日本土壌インベントリー上に公開されている。

 

 土壌情報の利用のさらなる進展に期待

農研機構では、今後の取組として、デジタル土壌図の更新体制の構築を行うとともに、広域での土壌温度・水分量のリアル・タイム予測システムの開発などを行っていくとしている。

さらに、今後も様々な機能や土壌特性値マップを開発し、順次公開していく予定だ。これらをオープンデータ・汎用形式で提供することにより、土壌情報の2次利用やユーザー独自のシステムでの利用が容易になり、各方面での土壌情報の利用がさらに進むと期待されている。


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