2024年1月17日 「へき地」の方が幅広い診療 横市大准教授らが「かかりつけ医」調査

横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子 惇准教授らの研究グループは、日本全国の「かかりつけ医」にアンケート調査を行い、どのくらい幅広く診療を行っているかを調査したところ、勤務している医療機関が「へき地」である方がより幅広い診療を行っていることを明らかにした。

かかりつけ医として多くの問題に対応できるためには、幅広い診療を行う能力が必要となる。諸外国の先行研究では、かかりつけ医による診療の幅が広いことは低い入院率や医療費と関連していた。また、医師側にとっても診療の幅が広いことがバーンアウト(燃え尽き症候群)の少なさと関連しているという報告がある。診療の幅に関連する要因として、性別・経験年数・受けた研修など個人の要因、地域の他の医療機関とのバランスや医療機関の周りの住民の人口構成などの環境要因があるといわれている。

そのなかでも他国での研究では「へき地」での診療が最も診療の幅に影響を与えると報告されてきたが、日本で「へき地」の程度とそこで行われている診療の幅を調査した研究はこれまでなかった。

研究では、日本プライマリ・ケア連合学会のメーリングリストに参加している医師会員3317名からランダムに選出された1000名を対象として、ウェブアンケートを用いた横断調査を実施。「へき地」の程度を測定するために、研究参加者が主に診療している医療機関の「へき地」度を『RIJ: 1-100』を用いて測定した(1が最も都市部、100が最もへき地を表す)。

診療の幅の測定のために、Scope of Practice Inventory(SPI:0‐68点)とScope of Practice for Primary Care(SP4PC:0‐30点)という二つの尺度を用いた。これはそれぞれ医師が自分の診療について答えるもので、SPIは入院管理、救急対応、外来診療の三つのドメインからなる合計68項目の尺度。

具体的には入院管理では「頭部CT画像の基本的所見の読影」「終末期患者の家族に対する予測される経過の説明」「脳卒中の初期評価」などの25項目、救急対応では「捻挫の初期治療」「保護者に対する小児の発熱時対応の指導」「傷の縫合」などの27項目、外来診療では「気管支喘息の診断・治療」「血尿患者への適切な対応」「めまいの診断と緊急性の判断」などの16項目からなる。

参加者はそれぞれの項目について〝実施している〟〝実施してない〟のどちらかを選択。SP4PCは「新生児の診療」「妊婦の診療」「学校医としての診療」「手術室での手術」「緩和ケア」などの22項目(30点満点に換算)で構成し、SPIと同様に〝実施している〟〝実施してない〟のどちらかを選択した。

これらの項目と性別、医師経験年数、主な診療のセッティング(診療所か病院かなど)、「へき地」診療経験の有無、専門医資格の有無をアンケートで調査し、診療の幅に関連する要因を検証しました。また、最も都市部(「へき地」度1‐10)と最も「へき地」(「へき地」度91‐100)の地域で、それぞれ80%以上の医師が行っている診療を記述した。

回答者は299人(回答率29.9%)であり、SPIについては200床未満の病院勤務(診療所勤務との比較)、主な勤務地の「へき地」度が高い医師では診療の幅が広い傾向があり、女性、診療所や病院以外の場所での勤務、経験年数が長い医師では診療の幅が狭い傾向がみられた。SP4PCで診療の幅を測定した場合は、主な勤務地の「へき地」度が高い医師では診療の幅が広い傾向があり、診療所や病院以外の場所での勤務、経験年数が長い医師では診療の幅が狭い傾向が確認された。

このことから、どちらの測定方法で診療の幅を測定した場合も、「へき地」度が高い地域で診療している医師の方が診療の幅が広い傾向にあることが分かった。

また、最も都市部と最も「へき地」の地域で、それぞれ80%以上の医師が行っている診療を比較したところ、SPIの一部である外来診療の項目では差がなく、入院管理、救急対応SP4PCで「へき地」度が高い方がより幅広い診療を行っていることが明らかになった。


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