農研機構を中心とする研究グループは、樹の生育や収量を低下させることなくわい化栽培リンゴ「ふじ」の着色を改善するための窒素施肥基準を策定し、マニュアルなどにより技術を紹介してきたが、3月2日に、これまで紹介した情報をまとめるとともに、導入手順や経営面の効果について新たに追加したSOP(標準作業手順書)を公開した。
温暖化に対応できる新たな 窒素施肥基準を求める声
「ふじ」の赤い果皮色は、市場価値に直結する重要な果実形質の一つだが、果実成熟期の高温の影響や窒素施肥量の増加により着色不良となることが知られている。
近年の温暖化により、特に暖地のリンゴ生産地域では着色不良果の増加が懸念されている。一方、従来の窒素施肥基準は地域ごと、土壌ごとに異なることに加え、気候温暖化への対応も考慮されていなかった。
さらに、各県で定めた施肥基準と生産現場の実際の窒素施肥量の乖離も散見されており、温暖化に対応できる全国で利用可能な新たな窒素施肥基準が求められていた。
窒素施肥基準と根拠を示すSOP 導入に関する情報などを追加
農研機構が代表を務めた農林水産省委託プロジェクト研究「農業分野における気候変動適応技術の開発(温暖化の進行に適応する生産安定技術の開発:2015年度~2019年度)」では、農研機構と青森県、秋田県、長野県が連携してわい化栽培リンゴ「ふじ」の窒素施肥試験を5年間行うとともに、過去の関連する知見を加味して新たな窒素施肥基準を策定した。
その骨子は、「年平均気温を基準として窒素施肥量を設定する」こと、「樹勢によって窒素施肥量を加減する」というもの。
今回公表されたSOPでは、この施肥基準と根拠を示している。また、窒素施肥基準については、マニュアル等により技術が紹介されてきたが、今回、さらに導入に関する情報が加えられている。
SOPの概要・構成
このSOPは、わい化栽培でリンゴ「ふじ」を生産する場合の窒素施肥基準を導入するための手順書。果実の着色不順が問題となる生産現場において、リンゴ生産者や普及指導機関へ新たな窒素施肥基準を示すとともに、リンゴの生産性や果実品質を低下させることなく着色不良の改善が期待できることをデータを根拠に説明している。
Ⅰ章では、着色を考慮した窒素施肥基準、付随する樹相診断基準を示している。施肥基準では年平均気温を基に3段階の施肥量を示し、樹勢に合わせて施肥量を増減させる。これらの見方を説明するとともに、基準を策定した背景をポイントとして説明している。
Ⅱ章では、窒素施肥基準策定に関連するデータを基に説明している。年平均気温を基準として窒素施肥量を設定したのは、気温が高いほど果皮の着色が低下し、窒素施肥量が少ないと着色が向上するため。さらに、施肥時期、樹相診断基準、施肥量と果実品質、収量の関係について説明している。
Ⅲ章では、窒素施肥基準の導入手順、普及対象、経営面での効果について新たに追加し説明している。
巻末には、SOPにおける参考資料などが掲載されている。
このSOPの利用により、窒素多施肥による着色不良が改善され、施肥量削減によるコストと環境負荷の低減につながるとともに、過度な窒素施肥量削減による樹勢低下を抑えることで、リンゴ「ふじ」の安定生産に寄与することが期待される。