農研機構を代表機関とする農食事業28022Cコンソーシアムは、果樹の難防除害虫ハダニについて、ブドウとミカンの施設栽培で利用可能な天敵を主体とした新規で実用的な防除体系「〈w天(ダブてん)〉防除体系」を確立した。この防除体系は、土着天敵と天敵製剤の2つの天敵利用技術を適宜に組み合わせて使用する。また、農研機構では防除体系の普及の推進のため、標準作業手順書(SOP)を作成し、ウェブサイトで公開している。
実践的な作業手順書を求める声
近年、SDGsの達成が世界的目標となるなか、農業生産でも生産力向上と持続性の両立が一層重要な課題となっている。こうした中、病害虫防除では、環境負荷軽減と薬剤抵抗性の発達回避のため、化学合成農薬だけに頼らない技術の開発と普及が求められている。
ハダニは、体調0.5mmほどの小さな害虫だが、高温乾燥条件で増殖が非常に早いことから、特に施設栽培では被害が深刻となる。さらに、ハダニは化学合成農薬(殺ダニ剤)に薬剤抵抗性を発達させやすく、防除効果を補うために行われる追加散布がさらなる薬剤抵抗性を発達させる悪循環が産地で問題となっている。
こうした背景から、新たなハダニ防除戦略として開発された〈w天〉防除体系の導入を施設栽培でも容易にするため、実践的な作業手順書の作成が求められていた。
〈w天〉防除体系のポイント
農研機構が代表を務める農食事業28022Cコンソーシアムでは、〝果樹園に自然に生息する土着のカブリダニ(土着天敵)〟と〝製剤化されたカブリダニ(天敵製剤)〟のそれぞれの長所をうまく活かした経済性と実用性に優れた天敵主体の防除体系「〈w天〉防除体系」を構築した。
この防除体系は、①天敵に配慮した病害虫防除薬剤の選択 ②土着天敵の住処となる草生管理 ③補完的な天敵製剤の利用 ④協働的な殺ダニ剤の利用 ― の4つのステップから構成される。特に、土着天敵の活動が制限される施設栽培では、③の効率的な利用が求められる。
露地栽培のリンゴ、ナシについては、昨年SOPが公開されており、広く普及に活用されている。その一方で、施設栽培については、マニュアルにより〈w天〉防除体系の技術の紹介と普及が進められてきた。そこで今回、さらなる普及を図るために、より実践的な内容に充実させた標準作業手順書(SOP)が作成された。
公開されたSOPの概要
天敵を主体とした果樹のハダニ類防除体系のSOPは、「基礎・資料編」、「樹種編」で構成されている。
「基礎・資料編」では、〈w天〉防除体系を実際に導入するための説明書として、本防除体系の理解に必要な知識や情報がまとめられている。
「樹種編」では、樹種別に体系導入の手順や留意点を解説している。
今回公開されたSOP「施設編 ブドウ/ミカン」は、ハダニの増殖が顕著で薬剤抵抗性が深刻な施設栽培向けに、〈w天〉防除体系を実際に導入する上での手順や留意点をまとめたもの。特に、施設栽培では、環境条件や栽培管理の影響から、土着天敵の働きが露地ほど期待できないため、天敵製剤の利用方法に重点が置かれている。果樹の栽培環境は多様であり、また、天敵の利用技術は樹種や栽培法、園地の環境に大きく依存する。このため、安定した防除効果を得るためには、それぞれの地域や環境に適合した体系の調整・アレンジが必要となる。今回のSOPは、その手伝いができるよう、基礎から応用にわたって必要な情報を提供している。
具体的に内容をみると、「施設編」の1章では、〈w天〉防除体系の基本構造や導入における留意点を解説している。
同編2章では、ブドウ栽培への導入のため、〈w天〉防除体系の構築から個別技術の導入や実践までのノウハウを解説しており、モデル体系や導入事例を紹介している。
同編3章では、ミカン栽培への導入のため、〈w天〉防除体系の構築から個別技術の導入や実践までのノウハウを解説し、モデル体系や導入事例を紹介している。
同編4章には、カブリダニに対する各種殺虫剤・殺ダニ剤、殺菌剤の影響を網羅したリストが掲載されている。
IPMや環境保全型農業のさらなる発展・普及に期待
〈w天〉防除体系は、施設栽培でも省力的で減農薬が期待できる、人にも環境にもやさしい技術。今回公開されたSOPにより、果樹の露地栽培だけでなく施設栽培でも〈w天〉防除体系の活用が進むことで、さらなるIPM(総合的病害虫管理)や環境保全型農業の発展・普及が期待される。
農研機構では、これからも〈w天〉防除体系の改良・発展に努め、より使いやすく、効率的な病害虫防除を目指して個別技術の開発をさらに進めていくとしている。