2022年2月22日 【電通大】気の気流がエアロゾル感染の一因に クラスター発生地点での実地検証とシミュレーションから分析

 

電気通信大学の石垣陽特任准教授(情報学専攻)を中心とする研究チームは、新型コロナウイルス感染症の対策として広く推奨されている換気の方法次第では、気流に乗ってマイクロ飛沫が移動することで、集団感染を引き起こす一因となる可能性があることを発見した。

研究チームでは、この事例を国内外の研究者にいち早く共有し広く意見を求めるため、医学分野のプレプリントサービス「medRxiv」(運営:コールド・スプリング・ハーバー研究所(CSHL)、医学系雑誌出版社・BMJ、米・イエール大学)で速報原稿を発表した。

この調査研究は電通大に加え、産業医科大、宮城県結核予防会の研究者が行い、実際にクラスターが発生した日本国内の高齢者施設で、当時の換気状況を二酸化炭素(CO2)ガスにより再現して測定。その後、熱流体シミュレーションによってエアロゾルの挙動を分析した。

調査した高齢者施設ではデイルームで最初のクラスターが発生し、最終的に約60名が感染した。現地での実測の結果、このデイルームには大型の換気扇が取り付けられており、換気回数は毎時6回以上、一人当たり換気回数は毎時30立方㍍以上であることがわかった。

この換気量はビル管理法の基準に適合しており、厚労省のガイドラインが示す〝換気が悪い空間〟には当てはまらないと考えられる。

また、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が定める感染患者の隔離施設での換気回数の基準にも適合していることから、デイルームの換気状態は良好であったといえる。

一方、このデイルームに隣接する個室には、初期感染者と考えられる方が1名入居していた。そこで研究チームがCO2トレーサガス法によって気流を調査したところ、デイルームに設置された換気扇によって個室の空気が引き込まれており、個室からデイルームに向かって穏やかな気流が発生していることを発見した。

さらに、コンピュータによる熱流体シミュレーションによって気流の状態を確認したところ、個室から漏れ出したエアロゾルが1分ほどでデイルームに到達し、そこに滞在する複数の人に再吸入された可能性があることがわかった。

一般に高齢者施設では入居者の生活導線を支援するため、行き止まりの無い回廊を中心として、共用エリア(例:食堂、風呂、トイレ、デイルーム)と私的なエリア(例:個室、相部屋)が空間的に繋がっている。今回の調査の結果、このような特殊な空間設計では、換気能力だけでなく、風の流れを考慮した感染症対策が求められると考えられるため、研究チームでは今後、関連ガイドラインの見直しと、既存建物における気流改善の必要性を提言する方針だ。

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新型コロナウイルスの感染拡大予防のためは、「接触」「飛沫」「エアロゾル」の三つの感染経路ごとに、複数の対策を講じることが重要。このうちエアロゾル感染を予防するためには、マスクの着用に加えて、換気が重要だとされている。さらに室内の換気状態については、室内のCO2の濃度を計測・可視化し良好な状態に保つことで、たとえ空気中にマイクロ飛沫が存在したとしても、これらをいち早く排出させる手法が注目されている。

「仮面女子」とともに実証実験

電通大はこれまで、調布駅前商店街との共同実証実験により、飲食店・学習塾・スポーツジムなどのCO2濃度を可視化し、環境ナッジ行動を支援してきた。また、地下ライブハウスのような特殊な空間での新しい換気方法を提言するための実証実験を、アイドルグループ「仮面女子」と共に行っている。

さらに、最近のオミクロン株によるエアロゾル感染に備えるため、二木芳人教授(昭和大学医学部臨床感染症学講座)の監修のもと、事業者が自ら行える換気のチェック方法や換気対策ノウハウを「換気対策ガイドブック」としてまとめ、自治体を通じて2万部以上を無償配布している。

一方で、アクリルパネルやビニールシートなどの飛沫対策グッズが換気の阻害となり、クラスターを発生させる一因となる事も指摘してきた。

また、普及が進む安価なCO2センサの中には粗悪品が多いことを受けて、経済産業省のガイドライン策定にも協力してきた。

このように電通大が換気改善のための実践的な社会実証を行うなか、宮城県内でエアロゾル感染が原因とみられるクラスターが発生したとの連絡を受け、同大を中心とする研究チームによる現地調査が実現した。


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