2023年2月27日 DNAバーコードライブラリー公開 日本産樹木種の70%以上を網羅 森林総研ら

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所らの研究グループは、日本在来の木本植物(樹木やつる植物)のうち70%以上(800種以上)を網羅するDNA配列のデータベース「DNAバーコードライブラリー」を作成し、ForestGENで公開した。これは、国内の生物分類群のなかで最も包括的なDNAバーコードライブラリーの一つである。

 

植物に関する包括的なDNA バーコードライブラリーへの要望

一般的に生物種の同定は、標本の形態学的特徴に基づいて、高度な専門知識を持つ分類学の専門家が行う。しかし、形態学的特徴による同定では、個体の一部や原形を失った組織からは同定できないという問題があった。そのため、近年ではDNAの塩基配列をもとに、分子生物学的な手法による同定が行われるようになりつつある。

このなかで現在、「DNAバーコード計画」と呼ばれる、地球上に生息するあらゆる生物種の遺伝子のDNA塩基配列を解析し、データベース化しようという計画が、国際的コンソーシアムiBOL(International Barcode of Life)を中心に世界規模で推し進められている。この計画では、各生物種よりDNAを抽出し、DNA中の特定の遺伝子領域の塩基配列(植物については葉緑体DNA領域)を解読して、その塩基配列を4色のバーコードで表したもの(DNAバーコード)がデータベースに登録される。データベースであるDNAバーコードライブラリーには、形態学的特徴をもとに同定された学名や対応する証拠標本の採集地などの情報があわせて登録される。

日本でも、すでに様々な分類群についてDNAバーコードライブラリーが作成されているが、その多くが鳥類など動物を対象としたもので、植物についてはシダ植物以外ではまとまったDNAバーコードライブラリーがなかった。しかし、日本列島は非常に多様な植物相を有し、世界の35の植物多様性ホットスポットの1つでもあるため、日本固有の植物について包括的なDNAバーコードライブラリーが待ち望まれていた。

 

日本産木本植物の包括的 かつ有効なデータベース

研究グループは今回、日本在来の木本植物を対象にDNAバーコードライブラリーを作成した。

研究では、日本の主要な植生、すなわち亜熱帯、温帯、亜寒帯、高山帯から木本植物の標本の採集を実施。それらの標本を可能な限り低次の分類レベル(亜種または変種)まで形態学的特徴をもとに同定するとともに、DNAを抽出し、3つの葉緑体DNA領域(rbcL matK trnH‐psbA)の塩基配列を解読して、DNAバーコードライブラリーを構築した。標本数は日本列島全域の223地点から採集した合計6216個体(43目99科303属834種)で、日本産木本植物の77.3%の属と72.2%の種を網羅している。

このDNAバーコードライブラリーの有効性を確かめるため、BLAST(塩基配列比較のため利用される計算方法)を用いて、3つの各バーコード領域による識別能力の試験が行われた。rbcL、matK、trnH‐psbAの種レベルの識別能力は、それぞれ57.4%、67.8%、78.5%、属レベルの識別能力は、それぞれ96.2%、98.1%、99.1%だった。種レベルの識別能力は、2つのバーコード領域を組み合わせると90.6%~95.8%に向上し、さらに3つの領域を組み合わせると98.6%にまで上昇した。属レベルの識別能力は、2つの領域を組み合わせた場合には99.7%~100%、3つの領域を組み合わせた場合には100%に達した。これらの結果から、このDNAバーコードライブラリーは、日本産木本植物の包括的かつ有効なデータベースであるとし、森林総合研究所が運用するForestGENで検索システムを実装して公開し、その他Barcode of Life Database(BOLD)、Genbankにも登録された。

 

データベースの充実に期待

DNAバーコーディングによって、分類学の専門家でなくても種の同定が可能になる。さらに、個体の一部や原形を失った組織からも同定が可能になる。これにより、例えば土壌堆積物からDNAを採取して分析すれば、その生態系における植物種の多様性を評価したり、過去の環境変動により失われてしまった森林の構成を明らかにしたりすることができる。また、希少動物や有害動物の糞から餌としている植物種を特定できるため、生態系内の食物網をより詳しく理解することができ、生物多様性や森林植生の保全に役立つ情報を得ることができる。また、空気中の花粉を採取して種の同定を行うことで花粉症の原因となる植物種や寄与の程度を明らかにすることも可能となる。

このDNAバーコードライブラリーが多くの人に利用され、多くの研究者が研究に用いた標本付きDNA配列を登録するようになることで、データベースとして今後さらに充実していくことが期待される。


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