順天堂大学医学部総合診療科学講座の矢野裕一朗教授らは、日本企業での従業員のライフスタイル(睡眠状態や運動習慣など)がメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率にどのように影響しているかを明らかにした。健康経営度調査のデータを活用し、社員のライフスタイルとメンタルヘルス関連の欠勤率や離職度との関連を評価したもので、睡眠、運動、喫煙習慣がメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率と関連することが判明した。矢野教授らは「社員のライフスタイルを改善することは、欠勤率や離職率の低下につながるかもしれない」と、研究成果の可能性に期待を示している、
この調査は健康長寿産業連合会、JST共創の場形成支援プログラム「若者の生きづらさを解消し高いウェルビーイングを実現するメタケアシティ共創拠点」とともに、経済産業省主導の健康経営度調査データを用いた共同研究により実施したもの。
健康長寿産業連合会健康経営の推進ワーキンググループ(WG)では、健康経営の推進をテーマに『健康経営を通じた生涯現役社会の実現、および健康寿命の延伸』、『個々の企業における従業員等の健康保持・増進、それを通じた人材の定着・確保』、および『それらを推進することで「健康寿命延伸産業」の創出・拡大』の実現を目的とし、活動を推進している。今回、健康経営の各施策の取り組みが、従業員の健康状態や企業の利益率向上、医療費抑制につながるのかを俯瞰的観点から同定することを目的として、矢野教授との共同研究を開始した。
十分な睡眠で離職、欠勤率いずれも減少
矢野教授らは、経産省が毎年実施している「健康経営度調査」のデータを用いてライフスタイル(喫煙、運動、飲酒、睡眠習慣など)とメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率との関連について評価した。この分析は、1748社(従業員419万9021人)のデータが含まれ、メンタルヘルス関連の欠勤率の全体の平均は1.1%、離職率は5.0%という結果となった。
すべての生活習慣因子と交絡因子を組み込んだ多変量回帰モデルでは、睡眠により十分な休養が取れている者の割合が1%増加すると、離職率が0.020%、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.005%減少した。また、運動習慣 割合が1%増加すると、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.005%減った。
一方、喫煙割合が1%増加すると、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.013%ダウンしたが、喫煙に関しては解釈に注意が必要。今回のような一時点での横断解析では、先行研究でも、喫煙がストレスを軽減するというデータがある。しかし、経時的に評価した縦断研究では喫煙がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことや、禁煙介入によりメンタルヘルスが改善されることシステマティックレビューからも報告されている。研究チームは、「この研究は観察的・横断的なデザインで、従業員のライフスタイル要因とメンタルヘルス問題との間の因果関係を立証することは不可能で、この点は研究の限界として認識すべき」としている。
従業員のモチベ向上も期待
この研究では、日本企業での従業員のライフスタイル要因(睡眠、運動、喫煙など)と、メンタルヘルス関連の欠勤率や離職率との関連が示されたが、研究グループでは、今回の研究成果をもとに、企業は従業員の健康的なライフスタイルを支援するプログラム(睡眠改善セミナー、職場での運動促進プログラムなど)を積極的に導入することを期待している。
さらに、従業員の生活習慣が改善されるだけでなく、メンタルヘルス関連の欠勤や離職を減少させることも期待される効果のひとつ。また、企業の健康経営の促進や従業員のモチベーションの向上にもつながる可能性があるという。