2024年5月1日 熱帯島嶼の窒素負荷削減効果の可視化に成功 食の窒素フットプリントを活用

国際農研と農研機構は、食の窒素フットプリントを活用し、熱帯・亜熱帯島嶼における有機資源利用促進と化学肥料削減による食料システムから、窒素負荷削減効果の可視化に成功した。研究では、沖縄県石垣島において、有機資源(牛糞堆肥)の利用促進により、化学肥料使用量を30%低減でき、島内で発生する窒素負荷が18%削減できることが分かった。この研究成果については、持続可能な開発目標(SDGs)や「みどりの食料システム戦略」の目標達成に向けた活用が期待される。

化学肥料や食料・飼料の国際価格は、原油価格の上昇などに伴って高騰することがあり、これらを輸入に依存する国・地域の農業や食料システムに大きな打撃を与える。

一方、作物の生育に欠かすことのできない反応性窒素(生物が利用可能な窒素分子(N2)以外の全ての窒素化合物に含まれる窒素)は、化学肥料等として農地に施用されるが、農地に投入された窒素のうち、作物に吸収されない分は農地外の地下水や川、海に流出し、周辺環境に負荷を与えている。

特に、貴重な海洋生態系を有する熱帯・亜熱帯島嶼地域では、過剰な化学肥料の使用が地下水汚染やサンゴ礁損失の一因となっている。

化学肥料と食料・飼料の価格変動対策や、環境負荷の低減のために、堆肥などその土地にある有機資源を活用する資源循環型農業が求められている。

 

食の窒素フットプリント 計算フレームを作成

「食のフットプリント」とは、食料の生産、加工、流通、消費、ヒトの排泄の全過程から、どれ位の反応性窒素が環境中に排出されるかを表す窒素負荷の指標。窒素負荷の主因の特定や、改善シナリオによる窒素負荷削減効果の定量化などに活用できる。

国際農研と農研機構は共同研究として、食の窒素フットプリントを活用し、熱帯・亜熱帯島嶼における環境への窒素負荷の実態や、対策による削減効果の可視化に取り組んでいる。

今回、この研究において、主な食料品目ごとに食の窒素フットプリント計算フレームを作成し、亜熱帯に位置する石垣島を対象に、外国から島内に輸入された食料・飼料、国内の地域間(本土や離島)で移入された食料・飼料や島外への食料の輸出・移出を考慮した食料システム全体の窒素フローと窒素負荷の現状分析、資源循環による化学肥料・窒素負荷の削減効果を定量化した。

 

耕畜連携による畜産業から耕種農業への窒素フローを考慮

作成された食の窒素フットプリント計算フレームでは、従来では考慮されていなかった耕畜連携による畜産業から耕種農業への窒素フロー(牛糞堆肥の窒素を牧草地、飼料畑以外の耕種農業を行う農地に還元する)を考慮しており、堆肥利用率の分析や資源循環による課題解決を検討しやすくなっている。

研究では、この食の窒素フットプリント計算フレームに、石垣島の統計データ等を適用し、現在の窒素負荷量や、島内で産出される牛糞堆肥の農地還元による化学肥料と窒素負荷の削減効果の計算が行われた。

石垣島の現状の窒素フローを分析した結果、島外から流入する窒素の半分以上は化学肥料由来であることが分かった。その一方で、牛糞堆肥の使用率は12.7%と低いことも判明した。このことから、牛糞堆肥の利用促進が化学肥料使用量削減に有効であると考えられる。

続いて、みどりの食料システム戦略が掲げる数値目標「化学肥料使用量30%低減」を島内で産出される牛糞堆肥の農地還元率を上げることのみで達成するシナリオが検討された。その結果、シナリオの達成には、島内で産出される牛糞堆肥を70%使用する必要があり、これにより、石垣島で発生する窒素負荷を18%削減できることが分かった。

 

地域有機資源を有効活用した環境への窒素排出削減対策の検討に利用

今回構築された食の窒素フットプリント計算フレームは、地域有機資源を有効活用した環境への窒素排出削減対策の検討や、消費者・生産者・行政等に検討結果を分かりやすく示すことに利用できる。

一例として、「みどりの食料システム戦略で掲げられている『化学肥料使用量30%低減』を達成するためには、資源循環型農業の取組を地域の実情に合わせてどう進めていくべきか、消費者・生産者・行政等はそれぞれ何ができるか」など、それらの具体的な検討に活用することができる。

研究グループでは、今後、この食の窒素フットプリント計算フレームを用いて、資源循環だけでなく肥培管理など様々な技術の組み合わせによる環境負荷軽減効果や、化学肥料の削減量を検討していく方針だ。また、日本だけでなく、フィリピンなど他の熱帯島嶼地域への応用や、消費者・生産者・行政等とのコミュニケーションツールとしての活用などを通じ、地球規模の窒素負荷・化学肥料削減に貢献していくとしている。

 

石垣島を事例とした食のフットプリントの計算フレームの概念(プレスリリースより)


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