2023年10月10日 熱帯二次林の形成時期を高精度に特定する技術開発 森林管理や生物多様性評価への貢献に期待

高知大学、国際農林水産業研究センター、岡山大学、総合地球環境学研究所、マレーシア国サラワク森林局、マレーシアプトラ大学、マレーシアサラワク大学、三重大学の国際共同研究チームは、東南アジアで焼畑き畑や山火事などによって森林が消失した後、そこから再生した熱帯二次林の年齢(形成時期)を高精度に特定する技術を開発した。

 

 東南アジアの熱帯雨林、残存する森林の6割以上が二次林

東南アジアの熱帯雨林は、生物多様性の宝庫と言われる地球環境にとって重要な生態系である。しかし、商業伐採や農地開発などの人為的な活動により原生的な熱帯雨林は既にほとんど消滅し、残存する森林もその6割以上が二次林に姿を変えている。

熱帯林の持つ高い炭素固定能や生物多様性といった生態系サービスを持続的に享受するためには、原生林に加えて熱帯二次林の適切な評価や維持・管理方法の確立が求められる。しかし、未だ東南アジアの熱帯二次林に関する情報は乏しいのが現状。その要因の一つとして、熱帯二次林がいつ形成されたのかを特定する技術が確立されていないことがあげられる。

森林の形成年代は通常、衛星画像を用いて判別する方法や、樹木の木部に形成される年輪を数えて判別する方法などがある。しかし、一年を通して高温多湿な熱帯雨林気候の環境では、衛星画像に写り込む雲の影響で植生の判別が困難な場合が多い。さらに、樹木も一年中成長が可能で木部に年輪が形成されないため、熱帯二次林の形成時期の正確な特定は困難とされてきた。

 

 放射性炭素同位体の濃度から樹齢を推定

今回の研究は、衛星画像を利用して森林の攪乱時期を6年以内の精度で特定できたマレーシアの熱帯二次林29ヵ所で実施された。

各箇所で20m×20mの調査プロットを設定し、プロット内の最大サイズの個体の胸高位置から木材のコアを採取し、その中心(髄)に含まれる放射性炭素同位体の濃度から樹齢を推定した。

大気中の放射性炭素同位体の濃度は、第二次世界大戦後の冷戦時代に行われた大気圏核実験によって急激に増加し、1963年に大気圏核実験が禁止されて以降は、生物圏への吸収(植物の光合成)や海洋などへの溶け込みを通じて、大気から年々減少している。樹木は光合成のために取り込んだ炭素を成長に利用するため、木材中に含まれる放射性炭素同位体の濃度を測定すれば、それがいつ取り込まれたものかを年単位で特定することができる。

研究では、衛星画像から推定した森林の攪乱時期と、木材コアの髄部分の放射性炭素同位体の濃度から計算したプロット内で最大サイズの個体の樹齢との間に、有意な正の相関関係があることが確認された。しかし、両者の間には5年程度のずれがあり、衛星画像から推定した森林の攪乱時期の方が早くなった。放射性炭素同位体の濃度を用いた方法が、森林の攪乱後に数年間焼き畑等に利用され、放棄後に侵入した樹木が人間の胸の高さまで成長してからの時間(樹齢)を推定しているのに対し、衛星画像を用いた方法は森林の攪乱を受けた時期そのものを判断しているため、両者の間に5年程度のずれが出たと考えられる。

この結果、放射性炭素同位体濃度を用いて算出された樹齢に、5年を足すことで森林の形成時期が特定できることが明らかになった。

 

 今後保全すべき熱帯二次林や鍵となる環境条件の解明に期待

近年、東南アジア地域の熱帯二次林は、急速にアブラヤシ農園などに転換されている。今回開発された方法を用いて、熱帯二次林の形成後の時間と炭素蓄積量や生物多様性との関係を明らかにすることで、今後保全すべき熱帯二次林やその鍵を握る環境条件などが明らかになるものと期待される。

熱帯林の多くの割合を占める熱帯二次林を適切に評価し、保全を図る取組は、SDGsの目標15「陸の豊かさを守ろう」の達成に貢献する。


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