文部科学省は、初等中等教育段階の教育政策の改革方針を示すものとして「教育進化のための改革ビジョン」を公表した。新型コロナウイルス感染症を契機として、生活様式が変わり、また、デジタル化が急速に進む中、初中教育段階の教育政策について、「令和の日本型学校教育」答申の具体的な進め方など教育進化の方向性を示している。
改革ビジョンは、「誰一人取り残さず個々の可能性を最大限に引き出す教育」と「教職員が安心して本務に集中できる環境」という2つの基本理念と、1)「リアル」×「デジタル」の最適な組合せによる価値創造的な学びの推進、2)これまでの学校では十分な教育や支援が行き届かない子供への教育機会の保障、3)地域の絆を深め共生社会を実現するための学校・家庭・地域の連携強化、4)教職員が安心して本務に集中できる環境整備―の4つの柱を掲げた。
文科省では、同一年齢で同一内容を学習することを前提とした教育の在り方にとらわれず、これまでの日本型学校教育の優れた蓄積も生かして、個々に最適な学びを提供するとともに、地域や企業とも連携し、学校内外での豊かな体験機会を確保するため、○地域や企業の力を巻き込んだ学校運営や「リアルな体験」機会の充実、○教員研修の高度化、働き方改革の実効性を高める観点からの環境整備を中心に、○個別最適な学びと協働的な学びの日常化、○特別指導や支援が必要な子供への学びの場の提供、○全ての生徒の能力を伸長する高校教育の提供、○質の高い教職員集団の形成―に重点を置いて検討を進める。
これらの取組と連動して、教育と社会の接続の多様化・柔軟化を推進する観点から、大学の機能強化、学びの支援、リカレント教育の推進についても教育未来創造会議において検討していく方針。
「地域や企業の力を巻き込んだ学校運営や「リアルな体験」機会の充実」では、全ての学校でのコミュニティ・スクールの導入を加速(重点期間:令和4~6年度)し、地域に開かれた学校運営の実現と防災活動等での学校・地域の連携強化を図る。地域や企業と学校が連携した形での学習指導や、起業家との触れ合い、豊かな体験機会の提供を図る。さらに、地域や企業と連携し全ての子供に学校内外での異年齢集団の体験活動の定着や課題を抱える子供たちを対象とした体験活動の充実に向けて、経済界との直接対話により強力に推進していく。
教員養成大・教職大学院の機能強化・高度化も視野に
「教員研修の高度化、働き方改革の実効性を高める観点からの環境整備」では、文部科学大臣を本部長とする〝学校DX推進本部〟を設置し、デジタル技術の活用を含めた教員研修の更なる高度化や教師のICT活用技術の向上を図るとともに、校務の情報化をはじめとする学校における働き方改革を具体化する抜本的方策を検討する。
「個別最適な学びと協働的な学びの日常化」では、幼児期からの学びや生活の基盤を育む質の高い教育の提供、デジタル教科書等を活用した学びの充実、授業時数の弾力化や研究開発学校・特例制度も活用した学年を超えた学びの検証・開発を進める。
「特別な指導や支援が必要な子供への学びの場の提供」では、障害、不登校、特異な才能、日本語指導など特別なニーズのある子供やへき地の子供を対象としたオンライン等を活用した教育・支援の充実を図る。特例校の設置促進などによる、通常の学校だけでは十分な教育、支援が届かない子供への学びの場確保や学校内における個々のニーズに応じた取り出し指導など柔軟な指導の実施(障害、特異な才能、学習の遅れ、日本語指導等)を進める。
「全ての生徒の能力を伸長する高校教育の提供」では、発達障害や不登校経験者など多様な高校生への支援と通信制高校の質保証を図る。普通科改革等による地域・大学・企業等と連携した探究・STEAM教育、デジタル人材など専門高校と産業界が一体となった人材育成を図る。対面指導と遠隔・オンライン指導の最適な組み合わせについても検討を進める。
「質の高い教職員集団の形成」では、免許制度改革や勤務形態の柔軟化などを通じた、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を目指す。教職課程の見直し、教育養成大学・教職大学院の機能強化・高度化を進める。教員勤務実態調査や35人学級の効果検証を踏まえ、給与・処遇、多様な専門人材・支援スタッフを含めた教職員の配置の在り方の検討を進める。