国は医師偏在対策の一環として、病院の管理者要件における医師少数区域での勤務経験を見直す方針を打ち出している。こうした動きに対して日本医学会連合は16日、方針を見直すよう求める意見書を厚生労働省へ提出した。
現行でも全国に700施設ほどある「地域医療支援病院」の管理者要件には、医師少数区域での6ヵ月以上の勤務経験が課せられている。だが、先月行われた厚労省の検討会では、この病院の対象を拡大したり、勤務経験期間を延長する案などが上がっている。
意見書では、今回の見直しの方向性について深い懸念を表明。「若手医師は地域医療を含む臨床や研究について、多様なキャリアパスの中から、個人個人がその希望や適性に基づき将来の進路を自由意思で決定していくべき」と指摘。国には、若手医師の専門医の取得・維持と学位取得・研究が両立できる環境整備とそのための支援をするよう求めた。
そのうえで、「管理者要件の拡大は、若手医師の臨床や研究の多様なキャリアパスの担保や選択の自由を脅かすもので容認できない」と対応を批判。「このような制度が導入されれば、多くの医師が6ヵ月以上の医師少数区域勤務経験を求める義務に縛られ、若手医師の医学研究マインドの涵養や研究機会・研究時間の確保が、現状に比しても一段と困難となることは明らかだ」と訴えた。
さらに、医師の地域偏在の問題をこうした若手医師への規制的な手法で解決しようとすること、言い換えれば専ら若手医師に負担を押しつけることによる解決方法は認められないと苦言を呈した。
もしも、見直しが導入された場合は、喫緊の課題となっている医学系の研究力の向上にも大きくマイナスの影響を及ぼすと主張。「ひいては、我が国の医学・医療の進歩・向上を阻み、国民の健康や福祉に悪影響をもたらすことを深く憂慮する」としている。
■経済的誘引による偏在是正は大都市の医療の質低下を起こす
意見書は、財務省の財政制度等審議会が今年5月にまとめた「春の建議」にも言及。建議内の、「医師の偏在は自由開業制の下で生じている根深い課題であり、経済的インセンティブと規制的手法の双方を活用し、強力な対策を講じる必要がある。地域偏在の対策として、地域別診療報酬の活用を提案した。経済的インセンティブの当面の措置として、医師過剰地域の1点当たり単価(10円)の引き下げを先行させ、それによる公費の節減効果を活用して医師不足地域の対策を強化することも考えられる」という部分に着目。
これに対して、42の国立大学病院の 昨年度決算がマイナス60億円で、2004年度の国立大学法人化後、初めて赤字に転落したことを報告。光熱費や医薬品費、材料費が急激に高騰し、昨年度には医療比率が44.6%(2012年36.5%)にも上昇していたことから、「大都市圏の〝医師過剰地域〟の1点当たり単価(10円)の引き下げは、大都市圏の医療の質の低下・医療崩壊に直結するといわざるを得ない」としている。