2022年8月3日 いつ異物が食品に混入したか推定する検査開発 農研機構とハウス食品、受託検査サービスもスタート

農研機構とハウス食品分析テクノサービスは、食品に混入した昆虫の加熱履歴を評価する新しい遺伝子検査技術を開発した。7月5日には、この検査技術を利用した受託検査サービスがハウス食品分析テクノサービスにより開始されている。

 

社会情勢を受け異物が混入した時期の推定に役立つ加熱履歴の評価法を開発

多くの食品事業者では、商品に異物が混入しないよう細心の注意が払われているが、混入をゼロにすることは容易ではない。異物が混入した場合には、科学的な分析結果に基づき、異物がいつどこで混入したかを明らかにし、万が一、製造工程で混入した場合には改善策を講じることが望まれる。

SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)が普及した現代社会では、異物混入に関する情報を消費者が簡単に発信できるようになり、以前に比べて異物混入による風評被害が生じやすい傾向にある。消費者によるSNSの投稿が発端となり、製品の大規模な回収につながった例も知られている。

両団体の開発チームは、異物混入が食品産業界にとって大きな課題となっている社会情勢を受け、異物が混入した時期の推定に役立つ加熱履歴の評価方法の開発に取り組んだ。

農研機構では、DNAの分解の程度を測定することができる独自の分析技術である「FRED法」を開発している。生物の細胞に含まれるDNAは加熱や加圧などによって徐々に分解されるが、FRED法はこのDNAの分解の程度を増幅長の異なる複数のリアルタイムPCRを利用して定量的に測定する技術である。増幅長の短いリアルタイムPCRがDNAの分解の影響を受けにくい一方、増幅長の長いリアルタイムPCRは、DNAの分解の影響で増幅効率が大きく低下する。このため、増幅長の短いリアルタイムPCRと増幅長の長いリアルタイムPCRの差を調べることで、DNAの分解の程度を定量的に測定することができる。

また、昆虫の加熱履歴を評価する手法として、昆虫の細胞に含まれるカタラーゼという酵素の働きを確認する方法がこれまで一般的に用いられてきた。しかし、この方法は微生物の影響で誤判定が生じやすく、加熱の程度の定量評価が難しいという課題が残されていた。

こうした技術的課題を克服するため、農研機構とハウス食品分析テクノサービスは、FRED法を用いた食品異物の加熱履歴の評価を試みた。

 

従来よりも信頼性の高い検査が可能に

今回の共同研究では、風評被害の原因になりやすく、加工食品への混入報告の多いクロゴキブリを対象としたFRED法を新たに開発し、その方法でクロゴキブリの加熱履歴を定量的に評価できることを明らかにした。従来の酵素の働きを測定する方法とは測定原理が異なる、特定の生物種のみを対象とした遺伝子検査を新たに採用したことで、微生物の影響を受けにくくなり、加えて定量的な評価を実現したことで従来よりも信頼性の高い検査が可能になった。

また、研究成果をもとに、ハウス食品分析テクノサービスでは、クロゴキブリを対象とする加熱履歴の受託検査を7月5日に開始した。このサービスでは、実際に食品から発見されたクロゴキブリと、その食品の製造条件と同様の加熱処理を施したクロゴキブリのDNAの分解を比較する。これにより、製造から消費までのどの段階で異物が混入したのかを推定することができる。

また、このサービスにより、異物を発見した消費者への対応や必要に応じた製品の回収など、異物発見後における食品事業者の適切な意思決定が可能になり、異物混入による風評被害等の悪影響が小さくなることが期待される。また、異物混入の原因究明により、食品の安全性・信頼性の向上が期待できる。

このサービスには、評価可能な温度範囲(110℃以上のレトルト加熱のみ可能)や条件に制約があり、案件によっては受託できない可能性がある。

 

適用範囲の拡大や精度向上を推進

開始された受託検査サービスはクロゴキブリを対象とするものだが、DNAはどんな昆虫にも含まれていることから、食品に混入する恐れのある様々な昆虫の分析にFRED法を応用することが可能と考えられる。今後は、検査の適用範囲の拡大や更なる測定精度の向上に向け、研究開発を継続していく予定だ。

また、農研機構では、食品産業の発展のため、食品異物の分析技術について今後も研究開発に取り組んでいくとしている。


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