2021年9月22日 【天文台】世界最大規模の〝模擬宇宙〟作成 スパコンの全能力活用し

国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」の全能力を使ったシミュレーションによって、世界最大規模の〝模擬宇宙〟を作ることに成功した。この模擬宇宙のデータは誰もが使える形で公開され、宇宙の構造形成や天体形成の謎の解明に役立てられている。

宇宙は、数千億もの恒星の集団が作る銀河や、銀河が数百群れ集まる銀河団があり、さらにはその銀河団同士が宇宙の大規模構造を作り出すという、階層的な構造を成している。この宇宙の構造形成の鍵を握るのが暗黒物質。暗黒物質は重力のみが働く謎の物質で、この宇宙の質量の約8割を占めていることが分かっている。138億年前の宇宙誕生から現在までの間に、この暗黒物質が重力によって集まり、暗黒物質が多く集まった場所で星や銀河が形成されて、現在の宇宙の階層構造が作られたと考えられている。

銀河の由来解明に必要な「模擬宇宙」

このような構造のなかで、「銀河や、銀河中心に存在する巨大ブラックホールのような天体は、どのように生まれたのか」。この古来人類が抱いている疑問を、現在、国立天文台のすばる望遠鏡などを用いた観測で明らかにしようとしている。宇宙の構造形成の歴史の情報を観測の結果から引き出すためには、物理理論に基づいて作られた〝模擬宇宙〟との比較が必要になる。

模擬宇宙を作るには、コンピュータを用いて、宇宙誕生から現在に及ぶ暗黒物質の重力相互作用のシミュレーションをしなければならない。しかし、多大な計算資源が必要となるため、これまでの研究で用いられたコンピュータの能力では、観測との比較に必要となる空間的な大きさや精密さを達成できなかった。

国立天文台が2018年から運用を始めた天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」が、この問題を解決に導いた。千葉大学の石山智明准教授をはじめ、スペイン、米国など9ヵ国の研究者から成る国際研究チームによる研究成果。研究チームは、アテルイIIに搭載された4万200個の全CPUコアを用いて、世界最大規模となる宇宙の構造形成シミュレーションに成功した。

「Uchuu(宇宙)」と名付けられたこの大規模シミュレーションは、暗黒物質を2.1兆体の粒子で表し、それらに働く重力を計算することで、暗黒物質が作り出す模擬宇宙の構造を詳細に描き出した。

「Uchuu」は、一辺が96億光年という空間的な広大さと、矮小銀河から巨大銀河団に及ぶ8桁にもわたる幅広い質量の天体の進化を追うことができる精密さを実現できた。

誰もが用意に使える形式でネット公開

「Uchuu」のシミュレーションのデータは、全体で3ペタバイト(1ペタは10の15乗)にも及ぶが、研究チームは高性能計算技術によってこのデータを大幅に圧縮し、誰もが容易に使えるような形式でインターネット上に公開した。

模擬宇宙での暗黒物質の構造形成の情報に特化した約100テラバイト(1テラは10の12乗)の基礎データ。このデータは、すばる望遠鏡などによる大規模天体サーベイ観測の結果との比較に用いられ、宇宙の大規模構造の進化や、銀河や巨大ブラックホールの形成の解明に向けた研究に、幅広く役立てられることが期待されている。

 


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