2022年5月20日 ISO、抹茶の技術報告書発行 定義に関する情報を整理 国際市場での評価向上にも

農研機構が中心となって国際標準化機構(ISO)において作成を進めてきた、抹茶の定義に関する技術報告書ISO TR 21380が4月11日に発行された。この技術報告書には、日本で独自に発展してきた抹茶の栽培方法や製造方法、その歴史がまとめられており、日本産抹茶の国際市場での評価の向上にもつながると期待されている。

国際市場を適正化するため抹茶の国際標準化を推進

近年、健康志向の高まりに加え、菓子やアイスクリームなどへの用途が広がったことから、抹茶の人気が国内外で高まっている。

また、わが国からの緑茶の輸出は、ここ10年で約4倍に増加し、2021年は約204億円に達した。その大きな要因の一つとして、海外でも抹茶のニーズが高まっていることが考えられる。

画像:リリースより

抹茶は〝Matcha〟として、名前が世界中で知られるようになったものの、「抹茶とは何か」という国際的な規格がないため、例えば、〝Matcha〟と称する製品でもルイボスティーや紅茶を粉末状にした製品が流通しているなど、様々な製造方法や品質のものが含まれているのが現状である。

抹茶は、日本でその栽培技術や製造技術が開発され、「茶の湯」の文化とともに世界に伝わった日本発の茶の種類と言える。本来の抹茶の価値を正しく世界中に周知し、国際市場を適正化するため、農研機構を中心として抹茶の国際標準化が進められてきた。

 

ISOの取組、発行までの経緯

茶の国際標準化は「ISO TC34/SC8(ISO 食品専門委員会/茶分科委員会)」で行われている。この委員会では、新しい茶の種類に関する規格を開発する場合、まず、その茶についての栽培方法、製造方法、歴史的経緯などをまとめた技術報告書を作成している。

そこで、農研機構が中心となり、ISO TC34/SC8の国内審議団体である農林水産省農産局果樹・茶グループに加え、国内の専門家からなる審議メンバーの協力を得て、2019年にISOに抹茶の国際標準化の作業開始を提案した。さらに、2020年には抹茶の国際標準化を作業する作業部会の設置を提案し、研究担当者がコンビーナーに就任。その後、農研機構を中心に作成した技術報告書の原案を抹茶の作業部会に提案し、イギリス、ドイツ、中国のメンバーと内容を検討し、ISO TC34/SC8での2回の投票を経て、本技術報告書は承認され、4月11日に発行に至った。

技術報告書へ寄せられる期待 今後の展開方向

技術報告書には、抹茶の歴史、原料となる碾茶の栽培・加工法、碾茶から抹茶への加工方法や品質の要点等が記載されている。

栽培・加工方法については、公益社団法人日本茶業中央会が定めた「緑茶の表示基準」に基づいている。具体的には、葉の緑色を濃くすることとともに、うま味を増やし抹茶特有の香りを生じさせるために遮光栽培を行うことや、鮮やかな緑色を保ったまま、豊かな香りを生成するために碾茶機等を用いて碾茶を製造すること、舌触りやのどごしを良くするために石臼等で碾茶を非常に細かい粉末状にすることを述べている。

「抹茶」という言葉は、日本国内ではもちろん、現在では海外でも広く知られており、今や抹茶は「茶の湯」を嗜む一部の人々のためだけの茶ではなく、世界中で飲まれている茶になっている。しかし、抹茶がただ粉末状の茶というわけではなく、特別な栽培と加工を施して生産されるものであり、その技術が「茶の湯」の文化とともに日本で発展してきた、ということは必ずしも正しく認知されていなかった。

今回の技術報告書は、国際的な茶の市場で「抹茶とは何か」という定義について正しい情報の発信に役立つもの。この技術報告書が利用されることで、日本が伝統とともに育んできた抹茶に関する素晴らしい技術と品質が世界中に周知され、今後の抹茶の市場の発展につながることが期待される。

また、ISOが発行する技術報告書は、情報を周知するための文書であり、記載されている内容はルールとして何かを規定するものではないが、ISOの規格文書の一つである。

農研機構らは今後、抹茶の定義を定める国際規格の開発を目指すとしており、その中には、栽培・製造方法の規定に加え、品質に関わる化学成分の含有量についての規定を盛り込む計画だ。現在、国内外の抹茶サンプルを収集し、化学成分の分析を進めているところ。抹茶の国際規格が発行され、国際的に利用されるようになれば、日本産抹茶の市場拡大に貢献することが期待される。

わが国で発展してきた抹茶の国際市場での価値をより一層高めていくためには、抹茶の国際標準化を日本主導で進めていくことが重要。農研機構では、今後も農林水産省や国内茶業関係機関と連携しつつ、ISOの参加各国との議論を進めて抹茶の国際標準化活動を推進していくとしている。

 

 


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