2020年1月28日 野生きのこの放射性セシウム汚染特性を解析 濃度は種によって別々 森林総合研究所ら

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所、(国研)国立環境研究所、東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループは、福島第一原発事故後の東日本における野生きのこ各種の放射性セシウム濃度特性を明らかにした。

 

種・属ごとに一定の傾向がある野生きのこの放射性セシウム濃度

福島第一原子力発電所の事故によって、福島県を中心として広い地域に放射性セシウムが飛散した。きのこは放射性セシウムを吸収しやすい性質を持つため、東日本の広い地域で食品の基準値(100Bq/kg)を超える野生のきのこが見つかっている。その結果、令和元年9月現在でも、10県110の市町村で野生きのこの出荷が制限されている。

また、きのこは4~5000種類あるともいわれており、それぞれの濃度特性(環境中の放射性セシウムの吸収しやすさを示す指標)が不明であったことから、品目(きのこでは種に相当)ごとに出荷制限・解除が指示されている他の農産物と異なり、「きのこ(野生のもの)」と一括りにして出荷制限が指示され、その解除は種類ごとに行われている。

一方、チェルノブイリ原発事故以降ヨーロッパを中心に行われてきた研究では、「野生きのこの放射性セシウム濃度には種や属ごとに一定の傾向がある」とした報告がなされている。こうした状況から、日本でも、野生きのこの種ごとの放射性セシウムの濃度特性を明らかにすることができれば、出荷制限・解除の扱いを見直せる可能性がある。

 

モニタリングデータに着目 セシウム濃度を推定するモデル開発

野生きのこの放射性セシウム濃度は、種だけでなく地域の生育環境や放射性セシウムの汚染程度によっても影響を受けると考えられる。そのため、きのこの種特性を明らかにするためには、特定の地域によらない普遍的な結果を示すことが重要である。こうした点を踏まえ、研究グループは、食品の放射性モニタリングデータに着目した。

原発事故後、食品の安全性を確認するため、きのこを含む様々な食品について放射性セシウム濃度の検査が各自治体で行われており、毎月その結果が厚生労働省のホームページ上に公開されている。研究にあたっては、これを活用し、2011年から2017年までに公開されたモニタリングデータから、14県265市町村で得られた107種3189検体の野生きのこの測定データを得た。さらに、地域ごとの汚染程度のデータとして、文部科学省が行った航空機モニタリングの結果を利用した。

また、野生きのこの測定データはそれぞれ種や採集市町村、採集日の情報を含んでいる。研究グループはこれらの要因を数値化し、検体の放射性セシウム濃度を推定するモデルを開発した。その結果、多くのきのこについて、推定値は実測値と近い値を示した。この結果は、種と市町村と採集日の情報から一定の精度で実際の野生きのこの放射性セシウム濃度を推定できることを意味する。

さらに、セシウム吸収度が高い種ほど、同じ地域で採取された場合に放射性セシウム濃度が高くなると考えられるが、一般に、セシウム吸収度の高いグループには菌根菌とよばれる樹木の根と共生する種類のきのこが多く属し、低いグループには主に腐生菌とよばれる落ち葉や枯れ木などを分解して養分を得る種類のきこのが属していた。

 

出荷制限などの見直しに繋がる

この研究では、広域で得られた多数の種のデータを同時解析することで、種ごとに放射性セシウムの濃度特性が異なることを示すことができた。現在、野生のきのこは「きのこ(野生のもの)」として一括りにして出荷制限の指示が行われているが、今回の研究成果は野生きのこの出荷制限は種やグループごとに適用できる可能性を示している。

具体的には、セシウム吸収度が高いグループの測定結果が食品の基準値を超えてしまった場合でも、セシウム吸収度が低いグループの制限とは区別する、またはあるきのこの安全性が確認されればそれよりセシウム吸収度が低いグループの制限解除も同時に行うなど、より品目を細分化した新たな基準を作成できる可能性がある。このため、今後、他のモニタリング結果と比較し、推定モデルの精度の検証、セシウム吸収度の経年変化を調べるための追加調査を行う必要がある。

放射性物質の野生きのこへの影響は、福島県だけでなく東日本に広く及んでおり、野生きのこの採集を森の恵みとして楽しんできた住民の暮らしにも大きく影響を及ぼしている。今回の研究で明らかになった野生きのこの種による違いの情報は、地域での自家用の野生きのこの採食についても参考になると期待されている。


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