2020年4月1日 遺伝的に多様なスギ品種の開発を推進 無花粉遺伝子をヘテロで保有する精英樹を21系統同定

(国研)森林総合研究所林木育種センターと九州大学は、平成28年度に開発したスギの無花粉遺伝子を高い精度で検出できるDNAマーカーを活用し、全国の3312精英樹(成長の早いこと、幹が通直であること、病気や虫の害がないことなどを基準に全国の森林から選抜された個体)を含むスギの育種素材4241系統について、無花粉スギ遺伝子を保有する系統の探索を進めてきた。

その結果、合計21系統で無花粉遺伝子を保有するスギ系統の存在が明らかになり、日本各地で多様な無花粉スギ品種の開発が進められるようになった。また、今回明らかにした系統には、成長等に優れるスギ精英樹も含まれていることから、既存の無花粉スギ品種よりも成長等の特性に優れた品種が開発できると期待される。

今後の取組については、今回の成果を活用し、林業や森林づくりに貢献する遺伝的に多様な無花粉スギ品種の開発を推進していくとしている。

 

スギ育種素材4241系統を対象に 無花粉スギ遺伝子の保有の有無を探索

スギ花粉症は、わが国の人口の約1/3が発症しているとされ、大きな社会問題の一つになっている。そのため、森林総合研究所では、都市部に影響を及ぼす花粉発生源の特定、薬剤や森林管理による花粉抑制技術の開発、花粉の発生量が少ない少花粉スギ品種や花粉を生産しない無花粉スギ品種といった花粉症対策品種の開発等に取り組み、花粉発生源を減少させることを目標とした林野庁の花粉発生源対策に貢献してきた。

令和2年1月末現在までに、森林総合研究所林木育種センターでは、スギ花粉症対策品種として、少花粉スギ品種147品種、無花粉スギ品種7品種等を開発してきた。特に、花粉を全く生産しない無花粉スギ品種は花粉症対策として有効だが、林木育種センターがこれまで開発してきた無花粉スギ品種は、関東地方と関西地方に限られており、東北地方や九州地方でも品種開発が望まれていた。

また、花粉発生源対策を推進しつつ、林業の成長産業化を後押ししていくためには、さらに成長等が優れた花粉症対策品種の開発等を推進していく必要がある。このため、林木育種センターでは、平成17年に開発した「爽春」を親として、成長に優れた無花粉スギ品種「林育不稔1号」と「林育不稔2号」を開発してきたが、健全な造林地の育成のためには、より多くの遺伝的に多様な品種の開発が必要だった。

一方、平成28年度、林木育種センターと九州大学大学院農学研究院では、「爽春」の無花粉遺伝子を高い精度で検出できるDNAマーカーを開発している。これまで交配によって無花粉スギや無花粉ヘテロ個体を創出してきたが、このDNAマーカーの開発により、雄花の着花を待たずに無花粉遺伝子を有することを容易に判別できるようになった。研究グループは、このDNAマーカーを用い、全国のスギ育種素材を対象に、無花粉スギ遺伝子を保有しているか探索を進めてきた。

 

無花粉遺伝子をヘテロで保有する精英樹系統のリソースを構築

今回の研究では、「爽春」の無花粉遺伝子を高い精度で検出できるDNAマーカーを用いて、林業用の種苗生産に用いられるスギ精英樹3312系統(全国のスギ3670精英樹のうち90%にあたる)を含む全国の4241個体を対象に、無花粉ヘテロ個体の探索を実施。その結果、全国で合計21系統の存在が明らかになった。

この結果により、日本全国で遺伝的に多様な無花粉スギ品種の開発が進められるようになる。また、無花粉ヘテロ個体の多くは、成長等に優れる精英樹であることから、これら系統の間で交配することで、これまでよりも成長に優れた無花粉スギ品種の開発が日本各地で進むことが期待される。

一方、平成28年度に開発されたDNAマーカーでは、高価な解析機器や試薬が必要なことから、令和元年度に、安価な分析機材と簡単な工程で分析が可能な新たなDNAマーカーが開発された。このマーカー開発により、今後、都道府県等でも無花粉ヘテロ個体の探索が可能となり、日本各地で無花粉スギ品種の開発が進むことが期待される。

 

短期的・効率的に成長等の特性が優れ 遺伝的にも多様な無花粉スギの開発

今回の研究成果は、農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に適応した花粉発生源対策スギの作出技術開発」で得られたもの。

今回明らかになった21系統のヘテロリソースを活用することで、遺伝的に多様な無花粉スギ品種の開発を日本各地で進めることがこれまでより容易になる。今後、林木育種センターでは、全国で、短期的かつ効率的に成長等の特性が優れ、遺伝的にも多様な無花粉スギの開発を進めていくとしている。


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