2020年9月1日 迅速・非破壊・簡便な根の可視化が実現 イネ等の作物の根の形が改良可能に 農研機構

農研機構とかずさDNA研究所は、X線CTを応用し、土中の作物の根を非破壊で迅速・簡便に3次元的に可視化する技術を開発した。

根の形は、養水分の吸収効率に影響し、作物生産に大きく関わる農業上重要な特徴だが、その評価には多大な労力がかかることから、これまで根の形の品種改良はほとんど進んでいなかった。

今回開発された技術では、医療診断や機械部品の非破壊計測等に使われるX線CTを応用し、ポットに植えたイネの根を掘り出さずに12分で3次元的に可視化する。

この成果については、根の形の品種改良をはじめ、根の生育診断による個々の農地に合った最適品種の選定など、農業分野での幅広い活用が期待されている。

 

〝土中の根の形〟を非破壊・迅速・簡便に観察する手法への期待

根は作物生産に大きく影響する重要な器官であり、一例として、根が深いイネは干ばつ時に土壌深層の水や窒素を吸収するのに有利であり、根が浅いダイズやトウモロコシは冠水時に地表の酸素を得やすく根腐れが起きにくい傾向にある。

また今後、地球規模の環境変動により気候の極端化現象が一層加速することが予想され、日本国内でも根の形の改良がより重要になってくると考えられる。

可食部ではない根の改良はこれまで、根菜類以外のイネやダイズなどの作物ではほとんど進んでいなかった。通常、品種改良の際は優良個体を選抜するために数千から数万個体の調査が必要となるが、土中にある根の形や生長の様子を調べるには、根を掘り起こし、洗い出す必要がある。こうした作業には多大な労力がかかるため、多数個体の調査は不可能であり、〝土中の根の形〟を非破壊・迅速・簡便に観察する手法が求められていた。

 

工業・医学分野で使われているX線CT

見えない物体の中の構造を観察する手法の一つとして、X線断層撮影(X線CT)があり、工業・医学の分野で幅広く使用されている。ポットで栽培した植物の土中の根についても、これまでに海外でX線CTを用いた可視化が試みられているが、可視化に数時間かけて詳細な画像を得るという方法であり、多数個体の調査には適していなかった。また、長時間の撮影は、植物体の生長にも悪影響を与えてしまう。

 

ポットに植えたイネを掘り出さずに12分で3次元的に可視化

今回、農研機構とかずさDNA研究所は、最新のX線CTを導入し、さらにX線CT撮影と画像処理技術の最適化を行うことで、土中で3次元的に生長する根の形を非破壊・迅速・簡便に可視化する技術を開発した。

この技術は、X線CTを使い、ポットに植えたイネの根を掘り出さずに12分(CT撮影時間10分+画像処理時間2分)で3次元的に可視化するもので、「大きなポットに植えたイネに対応できる」、「迅速な可視化」、「根の経時変化も可視化できる」といったことが特長だ。

また、この技術で用いたX線CTは、使用に際し特別な資格を必要とせず、誰でも植物の根を観察することができる。

「大きなポットに植えたイネに対応」

この技術では、最大で直径20cm、高さ25cmの栽培ポットに植えたイネの根を可視化できる。細かい根(側根)の可視化は省略し、〝根の形〟を決定する種子根と冠根のみを可視化するようX線CTの撮影条件(管電圧・管電流・土の種類など)を最適化することで、大きなポットに植えられた根の形全体を短時間で可視化することに成功した。国内で栽培されているイネやコムギなどの根であれば、根の形を評価するには十分なサイズと考えられる。

「迅速な可視化」

この技術では、3次元メディアンフィルターとエッジ抽出という比較的単純な画像処理により、860枚のX線CT画像から根の3次元画像を再構成する。その結果、パソコンの処理能力にもよるが、最短でCT撮影時間10分(多少画質が劣化しても問題ない場合は最短約30秒のCT撮影でも解析可能)、画像処理2分の合計12分で〝土中の根の形〟を可視化できる。

「根の経時変化も可視化できる」

この技術を用いることで、根の成長などの経時変化も簡単に可視化できる。過去の文献から許容撮影回数を算出したところ、10分間の撮影(X線照射)だと140回の撮影でも植物体の生育に影響がないと推定された。

 

根の品種改良の加速化に期待

今回開発された技術によって〝土中の根の形〟を非破壊・迅速・簡便に観察できるようになった。このため、今後、イネでは品種改良が困難だった根の品種改良が加速すると期待されている。また、撮影条件を改良することで、イネ以外の様々な作物種でも根の観察が可能になる。

さらに、この技術は根の観察が簡単になることから、根の改良だけでなく、根の生育診断や生育予測にも利用可能と考えられる。本成果では簡単に可視化することを目的に、粒子の均一な土壌改良材を土として使っているが、今後、撮影条件や画像解析技術が向上すれば、自然の田んぼや畑で育った作物の根も簡単に可視化できるようになる。その際には、畑から土ごと掘り起こした作物の根をX線CTで可視化することで、根の張り具合や生育具合などを簡単に調べられると期待されている。


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