2021年5月27日 財政健全化に向けた建議 財務省が「将来世代の負担」を強調

財務省の財政制度等審議会は、今年の「財政健全化に向けた建議」を取りまとめた。新型コロナで顕在化した医療提供体制の問題について「財審がこれまでも提言してきた」と改めてアピール。各分野の改革を進めないと国民生活に深刻な影響を及ぼすと指摘。また、高齢化と現役世代の減少という構造的課題に直面する中で、新型コロナが発生。財政上の対応が国民の生活・事業を守るために重要な役割を担ったのは事実だが、将来世代の負担はさらに増加すると警鐘を鳴らしている。

その上で、新型コロナ対応は引き続き万全を期すとし、繰越分や3年度予算の執行、予備費の活用により、重点的かつ的確に支援を実施すると強調。業態転換や生産性向上に取り組む主体を支援し、成長力強化につなげていくべきだとしている。人為的に抑制された経済活動の再開による民需の回復、今後発現する繰越分の執行の効果等を踏まえて経済財政運営に当たる必要があると指摘している。

また、低金利下で国債増発のコストを感じにくいが、悪化した財政状況は、将来への負担先送りのみならず、現時点でもコストやリスクであり、社会保障の受益と負担の不均衡は、現役世代の保険料負担の増加や将来不安に伴う消費の抑制を通じて、経済を下押し。新型コロナ対応による短期国債の大幅な増発は、市中発行額の高止まり、金利変動に対する脆弱性をもたらしている。

プライマリー・バランス(PB)の赤字幅が大きいと、成長率が金利を上回る場合でも上昇するとし、さらに、成長実現ケースに達さないリスクがあることも認識する必要があると強調。歳出・歳入両面の改革により、社会保障制度の持続可能性を高めるとともに、PBを黒字化し、新規国債発行額の総額を確実に減らすことが必要としている。

令和元年度から3年度までの「基盤強化期間」の歳出の規律付けは、PBの改善や、社会保障の制度改革・効率化の推進に重要な意義があるとし、省庁・分野を超えたメリハリ付け、歳出の質の向上の取組などの各歳出分野の規律としても作用していると指摘。

 

「EBPM」の推進を提言

社会保障の見直しは、複数年度の継続的・安定的な取組が必要であり、後期高齢者の急増が続く3年間、一貫した改革努力が必要だとし、このため、少なくとも、令和4年度から3年間、基盤強化期間における歳出の目安を継続し、歳出改革を引き続き実施すべきだと訴えている。歳出改革の共通の方向性として、行政の効率化と質の両立、民間資金の活用、さらに政府や地方公共団体の仕事の進め方を根本的に見直し、より効果的で効率的なものに変える「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)」の推進などを例示している。

具体的な政策として、例えば「年金」では、今後、将来世代の給付水準を更に向上させていくため、被用者保険の更なる適用拡大、マクロ経済スライドの名目下限措置の撤廃、財源確保の在り方とあわせた保険料拠出期間延長の検討の必要があるとしている。

水道事業については、小規模事業者が多数存在し、経営基盤が脆弱と指摘。類似の構造的課題を抱えた国保同様、広域化を目指すべきだとしている。

文教・科学技術分野では、目指すべき方向性として、①「量」から「質」へ、②エビデンス重視、③人材の流動化の3点を強調。予算の「量」ではなく、目指す成果「質」に焦点を当てた予算の使い方を議論することが重要だとした上で、国立大学法人運営費交付金を取り上げ、教育・研究の質の向上に繋がる大学間、大学内の「配分(使い方)」こそが重要な論点であり、配分のメリハリを強化していくべきだとしている。

また、義務教育から高等教育まで人材の流動性・多様性を高めるべきだとし、小中学校における民間企業等勤務経験者の参画の拡大、大学のアカデミック・インブリーディング(研究室内部からの人材登用の慣行)の抑止、大学経営者として有意な人材の獲得を要請している。


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