2017年10月12日 葉の大きさ決めるサイコロゲーム 基生研特任准教授らがメカニズムを発見

植物の葉はいろいろな大きさの細胞でできている。一番外側にある表皮の層は、特に細胞の大きさがバラバラ。岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所の川出健介特任准教授は、東京大学大学院理学系研究科の塚谷裕一教授(岡崎統合バイオサイエンスセンター客員教授)との共同研究により、葉の表皮細胞における「核内倍加」という現象が、サイコロゲームのようにランダムに起こっていることを発見した。また、核内倍加が起こるたびに細胞は一定の割合で大きくなるという、表皮細胞が独自に設けている成長促進ルールも見つけた。さらに、このふたつにより、表皮のバラバラな細胞の大きさをコンピューター上で再現することに成功した。これらの成果は、9月19日に科学雑誌PLOS ONE誌に掲載された。

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「核内倍加」について説明する。細胞は2つに分裂する前に核の中にあるDNAを2倍にしておき、分裂するときにそれを均等に二分する。これにより、DNA量は元に戻る。しかし、DNAが2倍になったにも関わらず分裂しないことがあり、それを「核内倍加」と呼ぶ。組織によって異なるが、DNAの倍加に応じて核、さらには細胞が大きくなる傾向にある。

細胞は生物の体をつくる基本単位で、どのような大きさになるかは厳密にコントロールされている。したがって、体の組織ごとに、一定の大きさに揃うのが一般的。ところが、一見すると決まった大きさは無く、さまざまな大きさの細胞で構成される組織も存在する。例えば、研究によく使われるシロイヌナズナという植物の葉では、表皮細胞の大きさがバラバラ。

なぜ、このように色々な大きさの細胞ができあがるのか。これまでの研究から、核内倍加の起こった回数と細胞の大きさに密接な関係があることは知られていた。しかし、核内倍加の起こる仕組みや、それに応じてどれくらい細胞が大きくなるのか、という点についてはよく分かっていなかった。そのような状況だったので、表皮細胞の大きさがなぜバラバラになるのか、という疑問は残されたままだった。

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研究グループは核内倍加が起こる仕組みを理解するため、シロイヌナズナの葉で細胞ごとに核内倍加が何回起こったか調べた実験データを統計的に解析した。その結果、核内倍加は、各細胞で平均して1.12回ランダムに起こる「ポアソン過程」と呼ばれる現象であることを見つけた。「ポアソン過程」は、事象がランダムに起こる時に見られる確率論的なプロセスで、サイコロゲームに例えることができる。

この発見により、核内倍加が起こる様子をシンプルな数式で表すことにも成功した。さらに、核内倍加が一回起こるたびに、細胞は上から見た面積で1.5倍大きくなるという、表皮細胞独自の成長促進ルールも明らかにした。

次に、ランダムな核内倍加と成長促進ルールを組み合わせて、表皮細胞1000個の大きさを数理モデルによる計算で推定。その結果、実際に観察される細胞の大きさのバラつきをうまく再現できた。

また、核内倍加を起こす回数が増えるシロイヌナズナ変異株の場合でも、サイコロゲームのあたり目が出る確率、もしくは、サイコロを振る回数を調節することで、実際の細胞の大きさのバラつきを再現できた。

これらの成果を踏まえて、研究グループでは、表皮細胞の大きさがバラバラになるのは、サイコロゲームのように無作為に核内倍加が起こり、それに応じて一定割合で成長促進が起こるからだと結論付けた。〝神はサイコロを振らない〟というアルベルト・アインシュタイン博士の言葉は有名だが、葉ではサイコロゲームがあるようだ。

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この研究では、表皮細胞が大きさを決めるときに用いるサイコロゲームを明らかにしたが、具体的にどのような分子がサイコロゲームを構成しているのかは、未だに分かっていない。このような確率論的な振舞いをする分子機構を明らかにすることで、細胞が成長する仕組みをより深く理解できるはず。

また、このようなサイコロゲームを進める際には、ある程度の確率のゆらぎが生じる。サイコロゲームで言うところの〝ツイてる/ツイていない〟という状況。細胞の成長という根本的な生命システムで、このようなゆらぎは時として好ましくない。そこで研究グループでは、このゆらぎを抑える工夫や、逆にうまく利用する工夫があると推測。これは、今回の研究で構築した数理モデルを発展させるとともに、さまざまな条件のもと核内倍加と細胞サイズの関係を調べることで、明らかにできると考えられる。

さらに研究グループでは、今回の成果は、核内倍加の特性を活用して農作物の有用形質を育種する場合に、どのような戦略を取るべきかという重要な指針を与えるものでもあると、研究の意義を強調している。


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