2016年6月6日 自然体験活動で高まる「保全意識」 東大教授らが環境心理学的アプローチで解明

日常的な自然体験活動は、子どもたちの生物多様性保全意識を向上させることが、東京大学教授らのアンケート調査などによりわかった。環境心理学的アプローチを用いて、小学生の生物多様性に対する保全意識を明らかとしたもので、子どもの「自然離れ」が急速に進むなか、環境保全に対する社会意識を高めていくために、子どもたちにさまざまな自然体験の機会を与えていることの必要性があらためて示された。

この調査研究を行ったのは、東大大学院工学系研究科都市工学専攻の花木啓祐教授、栗栖 聖准教授、日本学術振興会の曽我昌史特別研究員、森林総合研究所の山浦悠一主任研究員らの研究グループ。JSPS科研費の助成を受けて実施された。

 

世界中で進む「自然離れ」

昨今の急速な都市化の進行や娯楽の変化に伴い、自然と接する機会は減少の一途を辿っている。国立青少年教育振興機構が2010年に全国1万8800人の小中高生を対象に行った調査によれば、山登りや木登り、昆虫採集などの自然体験をしたことが無い子供の割合が、11年間で軒並み増加していることが明らかとなっている。

こうした傾向は日本に限ったことではなく、英国や米国、中国など多くの先進国でも同様の傾向が報告されている。こうした現代社会で増えつつある「自然離れ」は、環境問題に対する社会の関心や危機意識を低下させる根本的な原因であると指摘されているが、実態は明らかになっていなかった。

 

 「テレビでの自然体験」も意欲向上

今回、研究グループは、東京都に住む約400人の小学生を対象にアンケート調査を行い、小学生の自然体験頻度と生物多様性に対する親近感・保全意欲の関係を調べた。アンケートでは、直接的な自然体験(緑地での散策や虫採りなど)の頻度のほかに、テレビや本などで生き物を目にする頻度、親や友達と自然について話す頻度、性別などさまざまな項目を調査した。

これらの要因を検討して分析した結果、子供の生物多様性に対する親近感・保全意欲は、地域の自然や生き物と直接的に触れ合う頻度に強く影響されることを明らかにした。すなわち、緑地など地域の自然環境に高頻度で行く子供は、そうでない子供に比べて高い生物多様性保全意欲を持つことが分かった。

一方で、直接的な自然体験以外の項目を調べた結果、テレビや本などで生き物を目にするといった間接的な自然体験も、生物多様性に対する親近感と保全意欲を向上させることが示された。

この調査結果は、現在急速に進む子供の「自然離れ」が、社会の環境保全意識を形成する上で大きな障害となり得ることを示唆している。実際にこの研究でも、身近な自然環境をほとんど利用しない子供は、地域の生物多様性に対する保全意欲が著しく低いことが示されている。

その一方で、調査の成果は、たとえ都市緑地のような身近な自然であっても、それらをうまく活用すれば子供たちの自然に対する興味や関心を維持または向上させることができるという環境教育上、重要なメッセージを投げかけているといえる。

 

学術研究の進展に期待

これまで子供の「自然離れ」という社会現象については、やや主観・抽象的な議論が多くなりがちだったが、この研究は、身近な自然と触れ合うことが子供の環境保全意識を形成する上で重要な役割を持つことを明確に示している。

今回、日常的な自然体験が持つ環境教育上の重要性を明らかにしたことにより、子供の自然離れに関する学術研究や社会的認知が進展することが期待される。今後、研究グループでは、より詳細な現象解明を進めるとともに、都市計画、生態系保全、健康づくり、環境教育などさまざまな観点から具体的な対策提言を示せるよう、研究を進める方針だ。


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