2016年12月1日 自己修復コーティング材を開発 車から止血まで幅広い製品化に繋がる可能性

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラムの伊藤耕三プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として、大阪大学大学院理学研究科基礎理学プロジェクト研究センター長の原田 明特任教授らの研究グループは、凹み傷も切り傷も自己修復できるコーティング材料を開発した。

これまでにない設計原理に基づくもので、車のコーティングなどの化成品から止血シートなど医療用材料まで幅広い分野で製品化に繋がる可能性があるという。

 

材料は高分子ポリマー 「ポリロタキサン」

従来の自己修復材料は、凹んでも元に戻るという材料自体の特性を利用したものや切れても繋がる結合を用いたものが主流だった。一方、「硬いものは傷つくと修復しにくい」という課題は解決されておらす、これを解決する新しい設計原理での自己修復材料の開発が望まれていた。

原田特任教授(常勤)らの研究グループは、ポリロタキサンという特殊な構造の高分子ポリマーをベースとし、その間に切れても繋がる可逆的な結合を導入した設計の自己修復材料を開発した。

この材料は、溶媒を含んだ状態では、切断・再接触させても10分以内に修復率が元の80%以上まで回復し、また溶媒を含まないフィルムの状態では、表面につけた傷が30分以内にほぼ100%まで回復するという極めて速く効率の高い自己修復性を示すことを明らかにした。

近年の産業界では、損傷を受けても傷を自発的に修復する材料に対する注目が集まっている。これまでにも分子レベルで切れても繋がる可逆的な結合を組み込んだ自己修復材が多く開発され、イオン結合や動的共有結合、水素結合、配位結合、ホスト‐ゲスト相互作用などを介して修復する材料が多く開発されてきた。

しかし、従来の自己修復材料では、自己修復の速さや効率は材料の硬さとトレードオフの関係により、材料としての硬さを担保したまま、自己修復性能を向上させるような新しい材料設計が求められていた。

今回の材料の原料の一つであるポリロタキサンは、ひも状の高分子が多数の輪分子を貫通した構造をしており、輪分子はひもの上を自由に動くことができる。切れても繋がる可逆的な結合でポリロタキサンの輪分子同士を繋ぐことより、溶媒を含んだゲルが得られた。このゲルは、切断後に再接触させることで再び接着し、自己修復性を有することがわかった。

 

格段に速く効率よく修復

このゲルを乾燥させた溶媒を除いたフィルム状態での自己修復性能を評価したところ、フィルムの表面に付けた傷が30分以内にほぼ100%回復することが示された。ポリロタキサンの輪分子がひも上を自由に運動できる性質と、可逆的な結合の性質との相乗効果により、どちらか一方の性質だけを利用してきた従来の自己修復材料と比べて、同程度の硬さであるにも関わらず、格段に速く効率の良い自己修復が実現できることが明らかになった。


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