2017年11月2日 糖尿患者の善玉菌が増加 プロバイオティクス飲料の継続摂取で

順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学の金澤昭雄准教授、佐藤淳子准教授、錦田裕孝教授、プロバイオティクス研究講座の山城雄一郎特任教授らの研究グループは、(株)ヤクルト本社との共同研究の成果として、プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者の腸内フローラを変化させ、慢性炎症の原因となる腸内細菌の血液中への移行を抑制することを明らかにした。糖尿病の発症メカニズムや病態の理解、新薬の開発に道を開く可能性を示したものとして注目を集めている。

ヒトの腸内には100兆個を超える腸内細菌が棲みついており、複雑な生態系を形成し、腸内フローラと呼ばれている。腸内フローラは人々の健康な体づくりや病気の予防などに大きく関与しており、腸内フローラの乱れは健康に悪影響を及ぼすことが示されている。

中でも、日本人2型糖尿病患者では、腸内フローラのバランスが乱れていること、さらに腸内フローラの乱れから腸管バリア機能が低下することにより腸内細菌が血流中へ移行しやすいバクテリアルトランスロケーション(腸管内細菌が異常増殖して引き起こす腸管リンパ節などへの感染)が起こっていることを研究グループは明らかにしてきた。

研究では、食事・運動療法もしくは薬物療法で加療中の30歳から79歳の2型糖尿病患者70名を対象に、「ヤクルト」などのプロバイオティクス飲料を継続摂取するグループと非摂取グループに分け、16週間の経過観察を行った。

実験の結果、腸内から血液中へ移行した菌数は投与8週後において摂取グループと非摂取グループで差は認められなかったが、16週後において血液中の総菌数は摂取グループで有意に低下していた。

具体的には、非摂取グループでは血液1ミリリットルあたり6個の細菌が検出されたのに対し、投与群では1.8個と減少していた。

試験終了時の16週後において、摂取グループでは便中総ラクトバチルス属菌、特にラクトバチルス・カゼイとクロストリジウム・コッコイデスグループの菌数は非摂取グループと比較して有意に増加していた。また、ラクトバチルス・カゼイ以外の善玉菌であるラクトバチルス・ガセリとラクトバチルス・ロイテリも摂取前と摂取16週の比較で有意に増加した。

今回の研究で、プロバイオティクス飲料の摂取後に増加したラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ロイテリはいずれも腸管の上皮細胞間の接着を強化させる作用があることがわかっている。このことから、プロバイオティクス飲料の継続摂取は、腸内フローラの変化を介して腸管バリア機能を強化することで血中への腸内細菌の移行を抑制する効果があることが考えられる。

 

腸管バリア機能強化による慢性炎症の抑制の可能性も

腸内細菌の血中への移行は、宿主であるヒトにゆるやかな慢性炎症を引き起こす可能性があり、糖尿病の病態を悪化させることが懸念される。

今回の研究結果は、プロバイオティクス飲料の継続摂取が2型糖尿病患者の腸内フローラに変化を与え、腸内細菌の血中への移行を抑制することを初めて明らかにしたもので、2型糖尿病のさらなる病態解明や、腸管バリア機能の強化による慢性炎症抑制をターゲットにした糖尿病の新薬開発につながる可能性がある。


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