2019年3月29日 種無しカンキツの育種加速する技術開発 花粉量と花粉の受精能力を判別できるDNAマーカー

農研機構は、カンキツ果実の種子数を決める特性の一つである「花粉量」と「花粉の受精能力」を判別できるDNAマーカーを開発した。研究では、まず、カンキツにおいて花粉量と花粉の受精能力を制御する染色体上の場所をそれぞれ特定した。次に、これらの場所におけるDNA配列の違いに基づき、葯1つあたりの花粉量の多少と、花粉の受精能力の高低をそれぞれ判別できるDNAマーカーを開発した。これらのDNAマーカーを用いると、芽生えの段階で、花粉量が少なく、花粉の受精能力が低い個体を選抜することができる。また、種なし、あるいは種が少ない個体を高い確率でほ場に植え付けられるため、こうした特性をもつ優良なカンキツ品種を効率的に育成することが可能となる。

 

〔カンキツ果実の食べやすさを左右する重要な特性である種子の数に注目〕

果樹の育種では、交配によって得られた多数の個体をほ場で栽培し、糖度や種子数など様々な特性を評価することで、目的とする特性を持った個体を選抜する。最終的に品種となる個体はおおむね5000個に1個程度しか得られないため、優れた品種を育成するには、選抜の元となる集団のサイズをなるべく大きくすることが重要となる。

しかし、カンキツをはじめとする果樹は植物体自体が大きいため、ほ場に植え付けられる個体数には限りがある。その上、果実がなりはじめるまでには長い時間がかかるため、選抜の対象とする個体数を制限せざるを得ない。これに対し、DNAマーカーにより芽生えの段階で果実の特性を評価できれば、選抜の対象とする個体数を拡大することができる。

また、「温州ミカン」は出荷量の約7割を占めるカンキツ品種で、消費者からも好評を得ている。その理由の一つは果実に種が入りにくいことによる食べやすさにある。そこで、農研機構は、カンキツ果実の食べやすさを左右する重要な特性である種子の数に注目し、果実に入る種子の数を決める特性である「葯1つあたりの花粉量」と「花粉の受精能力」を効率的に判別するためのDNAマーカーを開発した。

 

〔葯1つあたりの花粉量と花粉の受精能力の調査と遺伝解析を実施〕

研究では、「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」を交雑して得られた57個の個体について、3年間にわたり、葯1つあたりの花粉量と花粉の受精能力の調査と遺伝解析を実施した。その結果、第8染色体に葯1つあたりの花粉量の多少を決定する場所(MS‐P1)、第6染色体に花粉の受精能力の高低を決定する場所(MS‐F1)を発見した。MS‐P1については、TSRF161とGSR5112、MS‐F1についてはNSX156とSSR08B32を、それぞれの場所を持つ個体を選抜するためのDNAマーカーとして選定した。

また、遺伝解析に用いた「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」を交雑して得られた個体集団において、MS‐P1を持つ個体は葯1つあたりの花粉量が少ない性質を示した。MS‐P1は「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」とを交雑して得られた個体集団において同定したもの。そこで、MS‐P1が他の個体集団でも利用できるか確認するため、「カンキツ興津46号」と、温州ミカンを母親に持つアメリカで育成された品種「カラ」とを交雑して得られた個体集団を用いて検証した。その結果、MS‐P1を持つ個体は葯1つあたりの花粉量が少ない性質を示した。

同様に、「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」を交雑して得られた個体集団でもMS‐F1を持つ個体は花粉の受精能力が低く、「カンキツ興津46号」と「カラ」を交雑して得られた個体集団でも、MS‐F1を持つ個体は花粉の受精能力が低い性質を示した。

また、代表的な品種・系統の葯1つあたりの花粉量について、細胞質の由来とMS‐P1の有無の影響を調べたところ、葯1つあたりの花粉量が極めて少なくなるためには、MS‐P1を持つだけでなく、紀州ミカン由来の細胞質も併せ持つことが必要であることが示唆された。同様の調査により、花粉の受精能力が低くなるためにもMS‐F1を持つだけでなく、紀州ミカン由来の細胞質も併せ持つことが必要であることが示唆された。

このため、今回開発されたマーカーを利用して、花粉量が少なく花粉の受精能力が低いカンキツ個体を選別するためには、紀州ミカン由来の細胞質を持つ個体集団を用いる必要がある。

 

〔花粉量が少なく花粉の受精能力が低い個体の選抜の検証を推進〕

今回の研究で開発されたDNAマーカーは「カンキツ興津46号」と「カンキツ興津56号」、「カンキツ興津46号」と「カラ」の交雑集団以外においても、花粉量が少なく花粉稔性が低い個体の選抜に利用できることが期待される。そのため、現在、様々な品種・系統を交雑して得られた個体集団を対象として、花粉量が少なく花粉の受精能力が低い個体の選抜の検証が進められている。


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