2019年11月6日 秋のドングリが支える ツキノワグマの1年の食いだめ戦略

ツキノワグマのエネルギー収支を推定したところ、秋はプラスであったが、春から夏にかけてはマイナスだった。クマは大量のドングリを採食することで、冬眠中だけではなく、翌年の春から夏にかけて必要なエネルギーを蓄えている―。

人間をはじめとする動物は、食べることで得られる摂取エネルギーと、身体を動かすことで使われる消費エネルギーのエネルギー収支を健全に保つことで身体を維持している。つまり、エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回ると体重は増え、逆の場合は体重が減少するため、エネルギー収支を明らかにすることで、栄養状態を評価することができる。

 

農工大と農業大のチームが15年にわたり研究

そこで、東京農工大学と東京農業大学の研究チームは、クマのエネルギー収支の季節変化とクマの食生活にとって大切な季節を明らかにすることを目的に、クマのエネルギー収支に影響を及ぼす要因として、クマに取って秋の主食であるドングリの結実豊凶に着目し、エネルギー収支とドングリの結実豊凶との関係を調べた。

研究チームでは、2005年から2014年にかけて、栃木県・群馬県にまたがる足尾・日光山地で追跡調査を行ってきた計34頭の成獣に、日々の活動状態を計測できる機能を内蔵したGPS受信機を装着し、1日あたりのエネルギー消費量を計算した。また、山の中で採取した1247個の糞からクマの食べ物を特定するとともに、野生のクマが採食を行っている計113時間に及ぶ映像から、クマが食べるそれぞれの食べ物の量を計算し、それぞれの食べ物のエネルギー量を掛け合わせることで、1日あたりのエネルギー摂取量を計算した。その上で、エネルギー摂取量からエネルギー消費量を差し引くことで、1日あたりのエネルギー収支を算出し、季節間のエネルギー収支やドングリの豊作年と凶作年のエネルギー収支の比較を行った。

いずれの個体においても春から夏にかけてのエネルギー収支はマイナスであったものの、秋には大きくプラスになることがわかった。また、ドングリの凶作年では、メスはエネルギー摂取量が減少することで、秋のエネルギー収支が低下することがわかった。

ツキノワグマは、春から夏にかけてアリやキイチゴの果実などを食べる。これらはサイズも小さく、森の中に散らばって存在するため、クマは効率的にエネルギーを摂取することができない。一方、秋のクマは、木に登り木の上にまとまって結実するドングリを食べるため、効率的にエネルギーを摂取することができる。しかし、ドングリの凶作年では、オスに比べて行動圏が小さいメスは十分な量の食べ物を得ることができないため、エネルギー収支が低下したと考えられる。

 

クマの科学的保護管理に期待

研究の結果、クマのエネルギー収支は季節間で大きく変化し、秋のドングリで1年間に摂取するエネルギーの約80%を摂取、つまり食いだめを行っていることが明らかになった。このことは、これまで不明であった野生のクマの栄養状態に関するさまざまな情報を得られることにつながる。また、秋のクマの人里への出没にはドングリの凶作が影響していることは知られていたが、他の季節の人里への出没にも前年のドングリの凶作が関係している可能性があり、クマの科学的な保護管理に大きく貢献することが期待される。


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