2020年3月26日 海洋生分解性プラスチックを開発 阪大の研究グループがデンプンとセルロースから

大阪大学大学院工学研究科の麻生隆彬准教授、宇山 浩教授らの研究グループは日本食品化工(株)と共同で、海洋生分解性プラスチックをデンプン、セルロースといった身近なバイオマスの巧みな組み合わせで開発した。

デンプンにセルロースを独自技術により複合化すると、デンプンの耐水性が大幅に向上し、得られたシート複合材料は優れた耐水性と高い強度を示した。さらに海水中で高い生分解性を示した。

これまで実用化されている海洋生分解性プラスチックの多くは脂肪族ポリエステルに限定され、性質、価格、生産量の課題から広く普及していない。

今回、麻生准教授らの研究グループは、安価かつ地球上に大量にあるバイオマス資源であるデンプンとセルロースに着目し、これらの誘導体を巧みに複合化することで高強度のプラスチックシートを開発した。デンプンの弱点である耐水性が克服できただけでなく、このシートは海水中で優れた分解性を示した。

今回の成果は、海洋ゴミ問題の解決に大きく資するのみならず、地球の物質循環やCO2削減に貢献する。SDGsやCOP25などの世界的な提言を実現するもので、日本政府主導の「ムーンショット(目標4:物質循環)」プログラムの方針にも合致する。

 

海洋ゴミの主因は廃棄プラ

海洋ゴミ問題の主たる原因は廃棄プラスチックによるもので、多くのプラスチックが環境中で分解しないことが原因。日本で開発された海洋生分解性プラスチックとしてPHBH(カネカ製)やPBS(三菱ケミカル製)がある。これらはいずれも脂肪族ポリエステルに分類され、ポリエチレン、ポリプロピレンといった既存のプラスチックと比して性質が劣り、価格も2倍以上と高く、さらに生産量が極めて少ないといった課題がある(生産量:1万数千トン/年、プラスチック全体:3億トン/年(世界))。このような現状を打破すべく、海洋ゴミ問題を解決できる安価かつ大量に製造できる海洋生分解性プラスチックの開発が社会的に強く望まれていた。

研究グループが開発したプラスチックシートは、コーン、イモ類に多く含まれる炭水化物の主成分であるデンプンと、植物の主成分で綿繊維として誰もが知っているセルロースは安価で、世界中に豊富にある。

 

強度2倍、1か月で海水分解

シートは透明で強度は汎用プラスチックの二倍以上だが、海水中に一か月浸漬すると分解が進み、シートには穴が開き、穴付近には菌類が多く見られた。これはシート表面にバイオフィルムが形成し、バイオフィルムから代謝された酵素によりシートが生分解したことを示唆している。

デンプンは身近に入手できる安価な素材だが、耐水性などの問題からプラスチック原料として積極的に用いられていない。しかし、デンプン、セルロースといった多糖類同士の強固な相互作用を利用することで耐水性が向上するだけでなく、複合化により透明かつ高強度のシートが形成され、さらには海洋生分解性を示すことを明らかにした。

製造方法はシンプルであるため、今後、企業との連携による工業化プロセスの開発により、早期の実用化が期待される。これまでに開発された海洋生分解性プラスチックであるPHBH、PBSはバイオマスの発酵を経て生産されるためにバイオマスの構造が残っていない。一方、今回開発した技術はバイオマス固有の構造をそのまま活かすことができるため、自然が生み出す独自のバイオマス構造の特徴を基にする成果と言える。


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