2016年5月19日 波エネルギーを吸収し乗り心地向上 東大生研准教授らが小型船を開発、商品化へ目処

東京大学生産技術研究所の北澤大輔准教授らは、波エネルギーを吸収しながら乗り心地を向上する小型船を開発した。(株)マネージメント企画の前田輝夫氏とともに、全長3.3メートルの小型船で海上実験を行い、波エネルギーの吸収と乗り心地の向上に成功、商品化への目処が立ったという。波エネルギーの吸収利用と同時に乗り心地の向上の達成を世界で初めて実現。また、必要に応じて、波エネルギーの吸収と乗り心地の向上の割合を調整するシステムを開発したもので、エネルギー消費削減が求められている漁船や揺れの制御が重要な作業船などに広く活用されることが期待される。

 

波エネルギーの150%以上を電力として獲得

日本沿海には豊富な波エネルギーがあり、現在の小型船は、波による揺れで乗り心地が悪く、航行は海況によって左右される。また、船のエネルギー消費削減は世界的な責務となっており、これまで船の揺れを抑制する研究開発は行われてきた。

北澤准教授らは、フロートが波から受ける力と、発電量やキャビンの揺れの制御を予測するシミュレーターを開発し、船の諸元や制御系の要素を選定した。まず試作した全長1.6メートルの縮尺実験船を試作して、水槽模型実験を実施。最適要素の組み合わせでは、フロート幅に入る波エネルギーの150%以上を電力として獲得できた。同時に、船の上下揺れ、縦揺れは、常用領域で波高の半分以下に抑制されることが分かった。

相似則を用いて全長約8メートルの小型漁船に換算し、小型漁船の操業条件、操業時の海況条件などを統計的に求めて当てはめると、年間を通じて約30%のエネルギーを削減できることになる。

 

キャビンの揺れは4分の1に

研究グループは昨年4月から、海上実験用の全長3.3メートルの小型船の研究開発に着手。同12月に2名が乗船できる小型船を進水させ、下関の日本海側にある油谷湾で海上実験を行った。

さらに、この海域の海況を一般化して普遍的なデータを得るために、実験船を水槽で検証実験を行い、海上実験の結果はどこの海域でも利用できることを明らかにした。

結果の一例として、波高0.2メートルの海域で、最適要素の組み合わせでは、波エネルギー吸収比約7割、またキャビンの揺れを4分の1に抑えることができた。

 

プレジャーボートへの応用も期待

今後は、エネルギー消費削減が求められている水産業界、揺れの抑制が重要な通船やオフショアのインフラ関連業界(洋上の風力・波力発電施設のメンテナンス船など)、さらに使用目的に応じて、エネルギー消費削減と乗り心地向上のどちらに重きを置くかが決まる業務艇やプレジャーボートへの応用が期待される。

今回開発したシステムは波エネルギーの吸収、乗り心地の向上のどちらにも対応でき、また航行中に、必要に応じて例えばダイアル一つでこれらの組み合わせの割合を調整することができる。幅広い要望に応える研究開発成果が、今後さまざまな船などに活用されることが期待される。

この研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「新エネルギーベンチャー技術革新事業/新エネルギーベンチャー技術革新事業(風力発電その他未利用エネルギー)/省エネ漁船用の革新的波エネルギー吸収利用の技術開発」の一環として行われた。また、水槽模型実験の一部は、笹川科学研究助成、科学研究費補助金(挑戦的課題研究)の補助を得た。


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