2020年9月24日 水稲の再生能力を活かした米の飛躍的多収生産 試験圃場レベルでおよそ1.5トン/10アールの超多収を達成

農研機構は、温暖化条件下で威力を発揮する「水稲再生二期作」において、1回目稲の収穫時期や高さを工夫することで、試験圃場レベルでおよそ1.5トン/10アール飛躍的な多収が得られることを明らかにした。この成果は、今後の世界食料需要のひっ迫が予想される中での米の安定供給や、国内の加工用米や業務用米の低コスト生産への貢献が期待される。

 

米の多収技術の開発への大きな期待

世界の人口は、2050年には100億人に迫ると予想され、そのおよそ半数が主食とする米の画期的な多収技術の開発は喫緊の課題となっている。

国内でも、加工用米や業務用米については多収による低コスト化が強く求められている。現在、生産現場の優良事例では、多収品種を用いておよそ800キログラム/10アールの収量が得られている。

また、九州地域は、国内のほかの地域に比べ、春や秋の気温が高く、水稲の生育可能期間が長い、つまり「早く移植して遅く収穫できる」といった特徴がある。さらに、近年では地球温暖化の影響で春や秋の気温も上昇しており、今後、生育可能期間が一層長くなると予想される。

 

 多収による低コストが期待される水稲の再生二期作

国内で栽培されている水稲は、多年生の性質を持つため、収穫後にひこばえが発生する。ひこばえを栽培・収穫すると、その分だけ収量が増えるが、収穫に至るまでには十分な気温が必要となる。

また、水稲再生二期作は、2回の収穫を要するものの田植えは1回だけであり、2回の田植えを行う二期作に比べ低コストとなる。さらに、1回の田植えで1回の収穫を行う通常の栽培と比べると、多収による低コスト化が期待できる。

この再生二期作については、これまで国内でも栽培事例があるが、近年育成された多収品種・系統や最近の気象条件での収量性の検討は十分に行われていなかった。

そこで農研機構は、水稲の生育可能期間が長いといった九州地域の地の利を活かした再生二期作で、1回目稲の収穫時期や高さを工夫することで、1回目稲と2回目稲の合計でどれだけの収量が得られるのかを、近年開発された多収系統を用いて明らかにした。

 

1回目稲の収穫時期や高さを工夫

今回の研究は、福岡県筑後市にある農研機構九州沖縄農業研究センターの試験圃場において、生育期間の気温が比較的高かった2017年と2018年に、研究用に開発された多収系統を用いて実施された。

両年とも、3月中旬に苗箱に播種・生育させた苗を4月中旬に本田に移植し、1回目稲を8月中旬(早刈、出穂からの積算温度900℃)または下旬(遅刈、出穂からの積算温度1200℃、多収品種では標準的な収穫時期)に地際から50センチメートル(高刈)または20センチメートル(低刈)の高さで収穫した後、2回目稲を11月上中旬に収穫した。また、出穂は、1回目稲が7月中旬で、2回目稲が1回目稲を早刈すると9月上中旬に、遅刈すると9月中下旬になった。追肥については、稲体の窒素を常に高く保つため、1~2週間ごとに行われた。

その結果、1回目稲を遅刈すると、1回目稲は早刈に比べて登熟が良くなり、精玄米で180キログラム/10アールの増収となった。また、このときの2回目稲は、早刈に比べて出穂が遅れ、気温の低下により登熟が悪くなったものの、成長に利用可能である非構造性炭水化物が切株に多く残った影響で籾数が減少せず、30キログラム/10アールの減収(高刈と低刈の平均値)に留まった。このため、1回目稲と2回目稲の合計収量は、150キログラム/10アールの増収(高刈と低刈の平均値)になった。

1回目稲を高刈すると、2回目稲は低刈に比べ、非構造性炭水化物や緑葉(葉面積指数)が切株に多く残った影響で籾数が増加するとともに登熟も良くなり、精玄米で190キログラム/10アールの増収(早刈と遅刈の平均値)になった。

これらの結果から、1回目稲を十分に成熟させた時期に地際から高い位置で収穫することにより、1回目稲と2回目稲の合計で多収となることが明らかになった。生育期間を通じて気温が高く日射量が多かった2018年には、生産現場の平均収量(福岡県で0.5トン/10アールの精玄米収量)のおよそ3倍にあたる1.47トン/10アールの粗玄米収量(精玄米収量で1.44トン/10アール)に達した。

 

今後は再生二期作に最適な品種の選定や施肥技術の開発を推進

農研機構では、今後、今回得られた知見を基に再生二期作に最適な品種の選定や施肥技術の開発を行った後、現地実証試験を行い、加工用米や業務用米の画期的な低コスト生産技術として九州地域を中心に普及させていくとしている。

既存のコンバインで地際から50センチメートルの高さで収穫することは難しいため、多収を確保できる最低限の収穫高さの検討や、コンバインの改良等も行う必要があるとしている。

また、将来的に地球温暖化に伴う気温の上昇が続くと考えられるため、再生二期作の収量の増加や、適地拡大が予想される。そのほか、再生二期作では、自然災害等に伴う国内外の米の需要に応じ、二期作目の実施の要否を判断することもできる。


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