2017年7月24日 新たなニーズに応える品種改良を加速化 ゲノミックセレクションがカンキツの品種改良に有用

農研機構、東京大学、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所は共同で、大量のDNAマーカー情報から特性を予測する新技術「ゲノミックセレクション」により、芽生え段階で果実重、果実の硬さ、果皮の色、果皮のむきやすさ、果肉の色、じょうのう膜のやわらかさといった果実の特性を高い精度で予測することに成功した。この技術を利用することで、従来のDNAマーカー選抜法の利用が困難であった、多数の遺伝子が関わる特性についても、芽生え段階で選抜することができる。また、ゲノミックセレクションの活用により、消費者などの新たなニーズに応えるカンキツの品種改良の加速化・効率化が期待される。

 

家畜育種分野で注目を集める「ゲノミックセレクション」

カンキツは、わが国の重要農産物の一つだが、近年、国内需要は低下傾向にあるため、新たな需要を喚起する新品種の迅速な育成が求められている。

果樹の育種では、ほ場で様々な特性を評価することで目的とする特性を持った個体を選抜し、品種としている。求める特性を持った個体はおおむね5000個体に1個体程度しか得られないため、評価する個体数を増やすことが非常に重要となる。

しかし、カンキツをはじめとする多くの果樹は植物体が大きく、ほ場に植え付けられる本数には限りがある。また、果実がなりはじめるまでに長い時間がかかるという特徴もある。このため、もしも芽生えの段階で果実の特性を評価できれば、植え付け本数と評価にかかる時間の両面から育種の加速化に大きく貢献することとなる。

また、近年、家畜育種の分野を中心に、新たな選抜手法である「ゲノミックセレクション」が注目され、実用化が進んでいる。この方法では任意の品種・系統間における特性の違いと大量のDNAマーカー情報との関係を数式で表した予測モデルを作成することで、新たに養成した個体についてもDNAマーカーの情報のみで高精度に特性を予測することができる。果実の場合は、果実がまだつかない芽生えの段階でもDNAマーカーの情報を得られるため、これを利用すれば多くの特性について有望な個体だけを選抜してほ場に植え付けられるため、実質的な評価個体数を大幅に増加できるものと期待される。また、この手法では、従来のDNAマーカー選抜法では適用が難しかった多数の遺伝子が関与する特性にも適用可能であることが示されている。

こうした背景の下、今回、研究グループは、ゲノミックセレクションのカンキツ育種への応用を目指し、その有効性の検証を行った。

 

ゲノミックセレクションの予測モデルを作成

今回の研究では、農研機構のカンキツ育種で交雑親として用いるカンキツ111品種・系統と、35の交配組み合わせから養成した676個体を合わせた787個体の果実重、果皮の色、皮のむきやすさ、糖度、酸含量など、17の果実特性とゲノム全体を網羅する1841個のDNAマーカーの情報を用いてゲノミックセレクションの予測モデルが作成された。

また、この予測モデルにより果実重、果実の硬さ、果皮の色、果皮のむきやすさ、果肉の色、じょうのう膜のやわらかさを精度よく予測できた。加えて、多汁性、種子の多少、糖度、果皮の滑らかさなども比較的高い精度で予測することができた。

さらに、果実重、香りの多少、多汁性、糖度は、ゲノミックセレクションを利用することにより、従来のDNAマーカー選抜よりも精度の高い選抜が可能であることを示した。

このほか、選抜に有効な予測モデルは、従来のDNAマーカー選抜法と異なり、新たに交雑集団等を養成しなくても、既存の品種・系統や過去の育種で育成した個体などを利用することで作成できる可能性が示された。

ニーズに応じた品種の育成効率を向上 今後は選抜の精度の向上に取り組む

今回の研究成果により、カンキツの育種にゲノミックセレクションを利用することで芽生えの段階で多くの優れた個体を選別できるため、選抜対象とする個体数を大幅に増やすことで、消費者や生産現場等のニーズに対応した品種の育成効率を向上させることができる。

研究グループは、今後について、選抜の精度をさらに向上させ、適用可能な特性を拡大するため、予測モデルの作成に利用するDNAマーカーの数を増やすほか、果実特性の評価方法を高度化していくとしている。


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