2021年9月15日 干ばつでイネの根が弱くなる仕組みを解明 頑健なイネ品種開発への活用が期待

農研機構は、干ばつによってイネの根の張りが悪くなる仕組みの一端を解明した。干ばつによる農業被害が世界的に大きな問題となっている中、今回の研究では、世界の代表的なイネ品種について、断続的な干ばつ下における根の形態と、全遺伝子の働きを比較し、干ばつによって根が細くなる原因と考えられる複数の遺伝子を発見した。この成果は、干ばつに対して頑健なイネ品種開発への活用が期待される。

 

27年間で約1億ヘクタールが被害

イネは世界で年間8億トン生産される重要な穀物の一つ。日本人にとっては「水田で栽培される」というイメージがあるが、世界では今でも天水田や畑など干ばつのおそれのある農地でイネが栽培されている。過去27年間で世界の稲作農地の62%にあたる約1億ヘクタールが干ばつによる被害を受けており、干ばつによる減収が食料安全保障上大きな問題となっている。こうした地域でお米を安定して生産するためには、干ばつに強いイネの開発が不可欠である。

干ばつに強い作物は太い根を地面の深くまで伸ばすが、イネは畑作物に比べて根が貧弱で干ばつに弱い作物である。農研機構では、2013年に世界で初めて根を深く伸ばすために必要な遺伝子を特定し、干ばつに強いイネの開発に成功している。干ばつにより強いイネを開発するためには、根が深くなるだけでなく、根が太く、根張りを良くする必要があるが、こうした特徴を持ったイネは現代の品種にはほとんど見られず、品種改良に利用できる根の太さや根張りに関与する遺伝子は不明だった。

 

世界中から集めた多様な61品種を研究

今回の研究では、品種改良に利用できる根の太さや根張りに関与する遺伝子を探すため、世界中から集めた根系形態の多様なイネ61品種を野外の断続的な干ばつストレス条件(畑ほ場)で栽培し、地上部(茎葉部)と地下部(根)の形質情報や、播種後7週目の葉と根の先端の全遺伝子発現情報をRNA‐seqという手法により取得した。

研究の結果、干ばつストレス条件で根の生育が悪い品種では、植物ホルモンの一種であるオーキシンによって発現量が上昇する遺伝子群が強く働いていた。オーキシンには根の生育を調節する役割があるが、根においてこれらの遺伝子群の働きを抑制すれば、地上部に影響を与えることなく干ばつストレス条件でも根の生育を良くし、生産性の向上に寄与できると考えられる。

また、オーキシンにより発現量が上昇する遺伝子群の解析から、干ばつストレスを受けた根が細くなる仕組みに関わる転写因子を同定した。

 

根の太さ以外の形質を制御する遺伝子の同定にもつながる成果

農研機構では、環境変動に頑健な作物の作出に取り組んでいる。その一環として、今回の研究成果で同定したオーキシン関連遺伝子や転写因子を改良することで、干ばつに強いイネ品種の開発に活かしていく予定だ。また、今回公開した形質情報や全遺伝子発現情報と、これまでに農研機構が公開したゲノム情報を利用することで、根の太さ以外の形質を制御する遺伝子の同定にも役立つことが期待されている。


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