2022年6月3日 山口県の野生イノシシの豚熱の感染源を分析 紀伊半島東部のウイルスと最も近縁だと確認

農研機構は、豚熱ウイルスの遺伝子の解析により、今年3月に山口県内で陽性と確認された野生イノシシ由来のウイルスが、昨年5月に約500km離れた紀伊半島東部で陽性と確認されたイノシシに由来するウイルスと最も近縁であることを明らかにした。この結果はウイルスの長距離伝播に対する対策の必要性を示すものである。

 

2018年に26年ぶりの発生確認

日本は1992年の発生を最後に豚熱の清浄化を達成したが、2018年9月、岐阜県内の養豚場で26年ぶりとなる発生が確認された。その後、発生農場の周辺の野生イノシシでも感染が確認され、イノシシの感染地域は徐々に拡大した。

陽性イノシシが発見された地域にある養豚場での発生が相次いだことから、イノシシの感染が認められた都府県やその隣接県などでは、全ての養豚場を対象に豚熱ワクチンの接種が開始された。

2022年3月初旬の時点で、本州におけるイノシシの感染の最西端は兵庫県東部であったため、山口県、島根県、広島県はワクチン接種の対象地域に含まれていなかった。そうした中、3月13日に山口県内で発見された死亡イノシシで豚熱の感染が確認されたことから、これらの3県についてもワクチンの接種が決定された。

また、それまで兵庫県より西側での発生が認められていなかったため、山口県で発見された陽性例については、イノシシ間での伝播を繰り返しながら山口県まで拡大した可能性と、遠隔地から人の動きなどに伴って持ち込まれた可能性が考えられた。このため、今回の研究では、感染イノシシから分離された豚熱ウイルスの遺伝子を比較し、山口県の感染例のウイルスの起源の推定を行った。

 

山口県のイノシシに由来するウイルスと近縁なウイルスを検索

野生イノシシでの感染状況を把握するため、現在、イノシシが生息する全国の都府県で、死亡して発見されたイノシシや狩猟等で捕獲されたイノシシを対象に豚熱の検査(サーベイランス)が実施されている。農研機構では、都府県から検査を依頼された豚やイノシシの検体に加え、農林水産省の要請に応じて都府県から提供された豚熱感染イノシシの検体を用いて豚熱ウイルスの分離を試みるとともに、分離したウイルスの遺伝子解析を実施している。

今回は、こうして得られた遺伝子の情報と、山口県の豚熱感染イノシシから分離されたウイルスの解析結果を比較することで、山口県のイノシシに由来するウイルスと近縁なウイルスを検索した。

具体的には、山口県の感染イノシシ由来ウイルスを含むイノシシ由来の豚熱ウイルス330株と、発生農場由来の豚熱ウイルス84株について、豚熱ウイルス遺伝子のほぼ全長(1万1826塩基長)を解析し、2つ以上のウイルス間で共通して認められる塩基変異を指標に比較を実施した。

その結果、近畿地方のイノシシ間で流行したウイルスの遺伝子配列は、南部と北部で異なり、山口県のイノシシに由来するウイルスは南部のウイルスに近いことが分かった。さらに、山口県のイノシシに由来するウイルスに最も近いのは、2021年5月に三重県内で捕獲された野生イノシシ由来のウイルスであることが分かった。

これらの結果から、山口県で見つかった感染イノシシへの感染は、紀伊半島東部からウイルスが運ばれた結果である可能性が高いと考えられる。こうした拡大は、感染イノシシから近隣のイノシシへの感染や、感染イノシシの移動のみによって起こったとは考えにくく、何らかの人の活動を介して起こった可能性が考えられる。

今回の結果は、現時点で遺伝子情報が明らかになっている豚熱ウイルスのみを比較して得られたものであるため、今後、その他の地域で山口イノシシ由来ウイルスの祖先にあたるウイルスが見つかることなどによって異なる解釈になる可能性も残されている。

 

人為的な要因での伝播に警戒

現在、九州ではイノシシの感染は確認されていないが、九州にも多くのイノシシが生息していることから、万が一、ウイルスが侵入すれば容易に感染が拡大することが懸念される。

今回、遠隔地への伝播が起こった可能性が強く示唆されたことから、更なる流行の拡大を防止するために、人為的な要因などによるウイルスの長距離伝播について、一層の警戒が求められる。

また、こうした感染拡大が起こった場合に、より早期に感染を把握するため、野生イノシシのサーベイランスを適切に実施し、イノシシにおける感染状況を正確に把握することが重要だと指摘されている。


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