2016年9月1日 小鳥の新たな渡り経路を発見 大陸経由で南下してインドシナ半島で越冬

(国研)森林総合研究所は、ドイツのヘルゴランド鳥類研究所、オーストラリアのディーキン大学、北海道大学、山階鳥類研究所との共同研究で、軽量の小鳥(体重15g)の渡りルートを極東で初めて明らかにした。東アジアからオーストラリアにかけての南北の区域は世界で最も多くの種類の渡り鳥が生息しているが、これまで小鳥の詳細な渡りルートは明らかになっていなかった。今回、研究グループは、ジオロケーターという小型の計測機器を草地性の小鳥(ノビタキ、体重15g)に北海道で装着し、その渡り経路の追跡を行った。その結果、繁殖を終えたノビタキは大陸に移動して中国を経由し、主にインドシナ半島で越冬していた。従来、日本の渡り鳥は本州伝いに南下して大陸に渡ると考えられていたが、今回の研究により、異なる渡りルートの存在が初めて明らかになった。

 

不明だった具体的な渡りルート ジオロケーターを用いて推定

多くの鳥類は繁殖地と越冬地が南北に離れており、毎年春と秋に数百~数千kmに及ぶ長距離の移動(渡り)を行う。東アジアからオーストラリアにかけての南北の区域は「東アジア・オーストラリア・フライウェイ」と呼ばれ、地球上の渡り鳥の40%以上がこの地域を利用して毎年南北に大移動を行っている。しかし、このフライウェイでの小鳥の具体的な渡りルートは明らかになっていなかった。

そこで、研究グループは、「ジオロケーター」という小型の危機を用いて、北海道で繁殖する小型の草地性鳥類「ノビタキ」の秋の渡りルートの推定を行った。2014年に石狩平野で51個体のノビタキにジオロケーターを装着し、2015年に帰還した12個体からジオロケーターを回収し、その照度データを解析した結果、ノビタキが本州を経由せず北海道から直接大陸に渡っていることが分かった。このルートは、これまで報告された本州の渡り鳥(本州伝いに大陸に渡る)とは大きく異なっている。大陸に渡ったノビタキは、その後、中国を経由して主にインドシナ半島で越冬していた。

1万3000年ほど昔の北海道は、最終氷期にあり寒冷で乾燥しており、草地が広がっていた。当時の北海道は、サハリンを通して大陸と繋がっており、マンモスをはじめ草地性生物の多くが大陸から渡来してきたとされている。ノビタキなどの草地性鳥類もこの北回りのルートで北海道に定着し、このルートが現在も遺産として残っているということも考えられる。

ジオロケーターを装着したノビタキの多くは華北平原を通過していたが、この地域は鳥類を大量に捕獲していることが報告されている。また、越冬地となっているインドシナ半島では、これまで焼畑などにより維持されてきた草地が、ゴム農園や恒常的な耕作地へ転換されて減少されている。さらに、灌漑の実施や農薬・肥料の使用量の増加などといった農業の集約化などにより、餌動物の減少などを介して草地性鳥類の生息地が縮小・劣化する可能性もある。

 

海外での取り組みも重要

明治期には、日本の国土の10%以上を草地が占めていた。しかし、現在では1%にまで大きく減少しており、草地に依存する草地性生物も大きく減っている。森林資源を循環利用する林業では、木材を収穫するための伐採、その後の苗木の植栽、植栽した木と競合する雑草や灌木の下刈りを行うが、この一連の作業は開放的な環境、すなわち草地に近い環境を一時的に作り出し、草地性生物の保全に貢献する。しかし、草地性の渡り鳥の場合には、国内だけではなく、海外の渡り中継地や越冬地での保全に対する取り組みも大事な役割を担っている。


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