2016年4月27日 小笠原のヒヨドリ、亜種の由来は別々 異なる地域が起源、島が移動性を低下させる

(国研)森林総合研究所は、小笠原諸島のヒヨドリの2つの亜種の集団が、沖縄の八重山諸島と、本州・伊豆諸島といったまったく異なる地域を起源とすることを明らかにした。また、南硫黄島(火山列島)のメジロが、近隣の島の集団とも交流がないことが分かった。さらに、移動性の強い広域分布種のヒヨドリやメジロであっても、島という特殊な環境では移動性を低下させることが明らかになった。今回の研究成果は、世界自然遺産としての小笠原の固有種がどのように作られてきたのかを示すものとして大きな意味を持つ。

 

多くの固有種が生息する小笠原諸島

本州から1000km離れた太平洋に浮かぶ群島である小笠原諸島は、他の島や大陸とつながったことのない海洋島であるため、多くの固有種が進化しており、生物進化の見本となっている。2011年6月には、その価値が認められ、ユネスコの世界自然遺産に登録された。

小笠原諸島は、北部の「小笠原群島」と約160km南に離れた「火山列島」から構成される。小笠原群島は4000万年以上前にできた古い島だが、硫黄列島は、数十万年ほどの歴史しかもたない若い島である。

この両地域には、同じウグイスやカラスバトの亜種が広く分布しているが、メグロやノスリは小笠原群島のみに生息している。こうした違いは、この2地域が成立した年代の違いと関係があると考えられている。また、メジロとヒヨドリは、北海道から沖縄まで広く分布する鳥だが、メジロは火山列島にのみ固有亜種イオウトウメジロが自然分布している。また、ヒヨドリについては、小笠原群島には亜種オガサワラヒヨドリが、火山列島には亜種ハシブトヒヨドリが分布しており、両者は形態的に異なっている。

こうした独特の分布を持つ鳥の起源を明らかにすることは、海に孤立した島の生物相の成立と島の動物の特殊な進化を理解する上でとても重要となる。

 

DNAの分析、遺伝的な比較を実施

火山列島は、北硫黄島、硫黄島、南硫黄島の3島から構成される。一般の人が住んでおらず定期航路もないため、これまでに十分に調査が行われてこなかった。

火山列島と小笠原群島の距離は約160kmだが、翼を持つ鳥にとってこの距離はそれほど遠い距離ではない。最近の遺伝学的な研究では、カラスバトでは両者の間で遺伝的な交流があることが示されている。さらに、ウグイスは小笠原群島の集団から火山列島の集団が派生したことが分かっている。しかし、メジロとヒヨドリは両地域で共通の亜種がいない独特な分布を持っている。

このため、森林総合研究所では、火山列島での調査の機会を活かし、これら2種に注目してミトコンドリアのDNAの分析を行い、火山列島、小笠原群島、その他の地域の集団の遺伝的な比較を実施した。

 

それぞれが異なる起源を持つ

ヒヨドリの分析では、2種のヒヨドリが小笠原諸島の中で2つの集団にわかれたのではなく、単純にそれぞれ異なる起源を持っていたことが分かった。小笠原群島のオガサワラヒヨドリは沖縄県南部に位置する八重山諸島に起源を持ち、火山列島のハシブトヒヨドリは本州や伊豆諸島の集団に由来しており、それぞれが島に定着した後で移動性を低下させ、交流のない独立した集団になったと考えられる。

メジロについては、火山列島のイオウトウメジロが南西諸島や伊豆諸島に分布する集団に近縁であることが分かった。また、イオウトウメジロが持つ遺伝配列は他地域ではあまり見られないものであることが明らかとなった。祖先集団が火山列島にやってきた後に、他の地域との交流がなくなり、独自に進化してきたものと考えられる。また、火山列島内でも、南硫黄島と硫黄島はわずか60kmしか離れていないが、それぞれの島に住む集団の間で交流がないことも分かった。

メジロもヒヨドリも全国的に広い分布を持っており、一部では渡りも行う移動性の高い鳥である。今回の研究では、そうした高い移動性を持つ種類でも、島という特殊な環境では移動性が低下し、それぞれが独立に進化していることが分かった。

また、イオウトウメジロもハシブトヒヨドリも、古い起源を持つ小笠原群島には進出せず、火山列島にのみ分布を広げている。これらの鳥が小笠原群島にたどり着いたときには、すでにメジロに近縁のメグロやオガサワラヒヨドリが先に分布していたため定着できなかったことなどが考えられる。この結果は、近縁種の存在が生物の定着に与える影響を考える上でも参考となる。

 

生物進化の見本としての価値を高める

今回の研究結果は、小笠原諸島という狭い地域の中でも、島が成立した時期の違いにより異なる生物相が成立することを示しており、世界自然遺産である小笠原諸島が持つ生物進化の見本としての価値をさらに高めるものと言える。今後、成立年代の異なる火山列島と小笠原群島でより多くの生物を比較することで、島の生物の進化の道筋を理解することができるようになると期待されている。また、今回の結果から、小笠原諸島では、鳥類という移動性の強い動物であっても、島や列島を単位として保全を行う必要があるといえる。

メジロもヒヨドリも小笠原諸島では外来植物の種子散布者となっており、島間を移動して外来植物を拡散させることが懸念されている。こうした鳥の島間移動の有無をDNA分析で推定することで、外来植物の拡散可能性を予測し、その管理手法の策定にも寄与することができると期待されている。


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