2019年2月26日 害虫の唾液からイネの食害促すタンパク質 有益な昆虫等に影響しない防除技術の開発に期待

農研機構は、イネ害虫のツマグロヨコバイの唾液に含まれるタンパク質を網羅的に解析し、イネを吸汁するために必要不可欠なタンパク質を発見した。このタンパク質をコードする遺伝子「NcSP75」の働きを抑えると、ツマグロヨコバイはイネからうまく液汁を吸うことができず、幼虫の場合はほとんど成虫になれずに死亡し、メス成虫の場合は産卵数が約1/9に減少した。この遺伝子の働きを抑えても、人工的に造った栄養液は吸うことができるので、NcSP75タンパク質はイネの液汁を吸うために必要であると考えられる。これまでに、NcSP75タンパク質はこの害虫からしか見つかっていないため、NcSP75タンパク質の作用を選択的に阻害することができれば、他の有益な昆虫等に影響しない新しい害虫防除技術の開発につながると期待されている。

 

稲作に被害を与えるツマグロヨコバイ 高まる新たな防除方法の開発への要望

ツマグロヨコバイは、イネやスズメノテッポウなどイネ科の植物を主な寄主とする吸汁性昆虫。篩管液や導管液を吸ってイネから栄養や水分を摂取するだけでなく、イネ萎縮病やイネ黄萎病などの病気を媒介することで稲作に被害を与える。国内における水稲の耕地面積は約148万ヘクタールだが、2016年度におけるツマグロヨコバイの発生面積は約45万ヘクタールであり、のべ防除面積は約86万ヘクタールに達すると見積もられている。

これまで、海外のイネからツマグロヨコバイに食害されにくい形質(抵抗性)に関わる遺伝子座が見つかっており、この遺伝子座を交配で導入した品種が日本で栽培利用されている。これらの遺伝子はいずれもツマグロヨコバイの吸汁を阻害し、イネへの病気感染も防ぐことができる。現在まで、野外でこれらの抵抗性品種を吸汁できるツマグロヨコバイが出現したという報告はないが、人工的に繰り返し選抜をかけることで抵抗性品種に適応できるツマグロヨコバイが出現した例があることは報告されている。こうした抵抗性品種に適応した害虫の出現に備えるため、新たなツマグロヨコバイ抵抗性品種の作出や防除方法の開発が求められている。

 

吸汁する際に吐き出す唾液に着目 タンパク質「NcSP75」を発見

ツマグロヨコバイは吸汁する際に、イネの内部に唾液を吐き出す。農研機構では、「この唾液にイネからの吸汁を促す仕組みがあるのではないか」と考え、その中に含まれる約70種類のタンパク質を網羅的に解析した。その結果、イネからの吸汁に必要不可欠なタンパク質「NcSP75」を発見した。

このタンパク質は、ツマグロヨコバイが吸汁する際にイネ内部へ吐き出されると考えられる。研究では、RNA干渉法により、このタンパク質をコードするNcSP75遺伝子の働きを抑えると、ツマグロヨコバイが篩管液を吸う時間が半分以下に減少した。さらに、この遺伝子の働きを抑えると、ツマグロヨコバイの幼虫の成長は阻害され、メス成虫の産卵数が減少することが分かった。

NcSP75の遺伝子の働きを抑えても、人工的に作った栄養液は吸うことができ、生存日数に影響しない。そのため、NcSP75遺伝子は、イネからの吸汁を成立するために必要であると考えられる。また、NcSP75遺伝子はツマグロヨコバイに特有のもので、ツマグロヨコバイと同様にイネを食害するウンカやアブラムシには類似の遺伝子は見つからなかった。

NcSP75は、ツマグロヨコバイしか持たない特殊なタンパク質なので、この働きを選択的に阻害することができれば、ヒトや家畜、他の有益な昆虫等に影響しない、環境にやさしい害虫防除技術の開発につながると期待されている。


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