2022年6月15日 害虫に超音波を用いた振動を与えて撃退 難防除害虫の新たな防除法の開発に期待

農研機構とピクシーダストテクノロジーズ株式会社は、様々な野菜・花き類を加害し、多くの化学農薬に対し耐性を持つ農業害虫であるタバココナジラミとワタアブラムシに超音波を用いた非接触力を与えると、作物から離脱することを明らかにした。特に、タバココナジラミについては、1~480Hzの振動を1分間与えることで、50%~60%の成虫を照射した葉から追い払うことができた。また、非接触力を飼育箱中のタバココナジラミに合計8時間(1日あたり4時間)与えると、産卵数が半減し、超音波を用いた非接触力が害虫防除に有効であることが示された。今後、照射範囲などの改良を進め、SDGsの一環である「持続可能な農業生産」に貢献しうる、新しい物理的防除技術として開発を目指していくとしている。

 

昆虫の持つ振動に対する感受性を利用した技術へ期待

「タバココナジラミ」と「ワタアブラムシ」は、多くの野菜、花き類などに深刻な被害を与える世界的な農業害虫。幼虫、成虫ともに植物の栄養を直接吸汁するだけでなく、甘露(病原菌が好む栄養素を含む排泄物)を排泄することで、すす病を引き起こし、作物の商品価値を低下させる。さらに、多くの植物ウイルスを媒介することでも知られている。また、様々な化学農薬に対して強い耐性を示すことから、化学農薬のみに依存した防除は困難となっている。

一方、昆虫の多くは環境中の振動を検知する感覚器官を持っており、植物を介した振動を感知して様々な反応を示すことが知られている。振動に対する感受性を利用して昆虫の行動を制御する手法が注目され始めており、この手法は化学農薬が効かない害虫にも適用できることから、様々な農業現場で活用できる可能性がある。

 

超音波集束装置による非接触力を用いた害虫防除の可能性を検討

超音波を用いて非接触力を与えることのできる超音波集束装置は、イチゴやトマトの人工授粉などへの利用も検討されている。また、多くの昆虫がコミュニケーションの手段として振動の情報を用いており、振動を感知して「停止する」、「伏せる」、「歩きだす」、「足踏みする」、「飛び立つ」などの反応を示すことが知られている。

今回の研究では、超音波集束装置の人工授粉以外の農業上の用途として、この装置による非接触力を用いた害虫防除の可能性が検討された。

 

タバココナジラミ・ワタアブラムシに対して離脱効果を検証

研究では、タバココナジラミとワタアブラムシに対して、離脱効果の検証が実施された。

タバココナジラミに対する離脱効果の検証では、インゲンマメの葉裏についたタバココナジラミの成虫に、超音波集束装置を用いて非接触力(周波数を1~1000Hzの範囲で8段階に設定し、出力範囲を縦20cm、横20cm、奥行き20cmに設定)を1分間与えた。その結果、1~480Hzで約60%の成虫が離脱した。この離脱率は、風速5m/sの風で吹き飛ばした場合と同程度である。

また、同様に非接触力(周波数を1~1000Hzの範囲で7段階に設定し、出力範囲を縦20cm、横20cm、奥行き20cmに設定)を30秒間与えて、離脱までにかかる時間と飛翔方向を調査。その結果、半数以上の成虫が、非接触力を与え始めてから5秒以内に離脱した。離脱した成虫の80%以上は下方向に飛翔した。

ワタアブラムシに対する離脱効果の検証では、ナスの葉裏についたワタアブラムシの有翅成虫と無翅成虫に、超音波集束装置を用いて非接触力(周波数を1~1000Hzの範囲で7段階に設定し、出力範囲を縦20cm、横20cm、奥行き20cmに設定)を1分間与えた。その結果、有翅成虫については1、10、30、240Hzで離脱を促し、無翅成虫については30、240Hzで離脱を促した。有翅・無翅成虫ともに30Hzで最も離脱し、有翅成虫の約25%、無翅成虫の約14%が離脱した。

また、タバココナジラミに非接触力を長時間与えた場合の産卵抑制効果の検証が行われた。播種後1週間のインゲンマメの幼苗1ポットを入れた飼育箱にタバココナジラミの成虫を放し、超音波集束装置を用いて非接触力(周波数は30Hzに設定し、出力範囲を縦20cm、横20cm、奥行きを地面から葉までの距離と等しくなるように設定)を下から与えた結果、非接触力を1日あたり4時間与えた場合、産卵数が約54%減少した。

 

持続可能な農業生産への貢献にも期待

今回の研究により、超音波を利用した非接触力は、タバココナジラミ成虫とワタアブラムシ成虫を離脱させるだけでなく、タバココナジラミの産卵数も減少させることが明らかになった。

超音波集束装置については、出力可能範囲がおよそ縦50cm、横50cm、奥行き50cm程度と狭いことから、実用化に向けて、温室内全域を移動可能な装置を開発し、離脱した害虫を粘着板や吸引機などで回収可能かどうか検討されている。

現在、振動農業技術コンソーシアム(代表:電気通信大学)では、トマトなどの栽培施設におけるコナジラミ類防除の省力化・減農薬化を目指し、超音波による非接触力を用いた、新しい物理的防除技術の共同開発が行われている。

また、研究では、今後、タバココナジラミやワタアブラムシ以外の害虫種に対しても離脱効果を示すのかについて検証される予定だ。

今回の研究成果については、物理的な防除技術は化学農薬の使用量を減少させ、薬剤耐性を発達させた害虫にも利用可能であることから、SDGsの一環である「持続可能な農業生産」にも貢献すると期待されている。


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