2019年9月19日 地下水の年代測定を省力化する採水法を開発 採水に要する時間を削減、機材も簡素・軽量化

農研機構は、地下水の年代を測定するために、市販の井戸用採水器を使って省力的に地下水を採水する手法を開発した。

農村地域の地下水資源を適切に管理するためには、雨水等がどこで浸透して地下水となり、どこを流れて湧き出すかといった「場所」の情報だけでなく、地下水がどれぐらいの時間をかけて流れてきたかといった「時間」の情報も重要となる。農業で使われる浅層地下水や中山間地域の斜面を流れる地下水は滞留時間が数年から十数年程度と比較的短いのが特徴で、こうした若い地下水の年代測定には、六フッ化硫黄(SF6)を使う方法が有効である。この方法で年代測定用の地下水を採水する際は、大気中の高濃度の六フッ化硫黄が試料水へ溶解することを避けるため、ポンプ等を使って大気と試料水を触れさせないように採水する方法が一般的だが、採水に時間がかかるため調査の非効率化の原因となっていた。

今回開発された手法は、市販されている井戸用採水器を使った省力的な方法で、採水にかかる時間を最大で60~70%削減できる。井戸用採水器と採水ロープのみを使うため、使用機材の簡素化・軽量化や、調査者の作業負担を軽減できる。また、この手法では、採水中に試料水が大気に接触するが、年代測定の精度は従来法と同程度となっている。さらに、この手法の留意点をまとめた技術資料を農研機構ホームページからダウンロードすることができる。

この手法については、農村地域の地下水資源の存在量や、中山間地域の斜面地(地すべり地等)における地下水流動状況を効率的に把握するのに役立つと期待されている。

 

地下水の年代調査における課題

地下水の滞留時間を調べることで、地下水の循環速度等、地下水資源を適切に管理する上で重要な情報を得ることができる。

日本の国土の70%以上を占める山地や丘陵地の斜面、浅層地下水の利用が多い農村地域では、数年から十数年程度と、比較的滞留時間の短い地下水が流れている。こうした若い地下水の年代測定調査には、地下水中に溶存する六フッ化硫黄の濃度を指標にする方法が有効である。

この方法で地下水の年代を測定する際には、ポンプを使うことにより、採水した試料水を高濃度の六フッ化硫黄が含まれている大気に接触させない方法が一般的となる。しかし、そうした制約が調査の非効率化や、調査の適用範囲の制限の原因となっていた。

 

井戸用採水器を使って採水時間を短縮できる省力的な手法を開発

今回、農研機構では、こうした課題等を踏まえ、井戸用採水器を使って採水時間を短縮できる省力的な手法を開発した。

この方法は、市販されている井戸用採水器を井戸や観測孔の径に合わせて使用し、採取した地下水を地上で試料ビンへ注水する省力的な手法である。採水過程で大気に接触するものの、大気と接触させずに採取する従来の採水法で得られる結果と差が見られず、六フッ化硫黄を使った地下水の年代測定を省力化することができる。また、今回の研究では、大気から試料水への溶解のモデル計算においても、この手法を用いたときの地下水の六フッ化硫黄濃度の上昇は1%未満(分析誤差の範囲内)と極めて小さいことも分かった。

使用機材や地下水の採取深度にもよるが、1地点あたり500ミリリットル×2本の地下水を採取する場合、機材の準備も含めた採水にかかる時間は、今回開発された省力法を使うことで60~70%程度削減することができる。従来法と同等の精度で調査コスト・作業量を低減することができる。

井戸用採水器を使う場合は、ポンプの揚程に伴う採水深度の制限がなくなり、深い地下水の採取も可能になる。さらに、ポンプ等を使わず、井戸用採水器と採水ロープのみを使うため、使用機材の簡素化・軽量化により、調査者の作業労力軽減や調査能率の向上も図れる。

 

地下水資源の存在量や地すべり地の地下水流動状況の把握での活用に期待

今回開発された省力法を使った効率的な年代測定調査は、採水時に大気に触れざるを得ない湧水等へも適用可能。また、試料ビンの外側容器としてより容量の小さい容器を用いることで、さらに採水時間を短縮させることもできる。従来法より現場での適用性が広がることから、今後、農村地域の地下水資源の存在量の把握や地すべり地等における地下水流動状況の把握とその結果を応用した対策の検討等への活用が期待される。

また、農研機構では、省力法の採水手順や留意点等の技術資料を公開しており、ホームページからダウンロードできる。


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