2017年11月14日 北海道で高級ワイン用ブドウ栽培 気候変動が大きな要因、今後も栽培拡大の見込み

農研機構らの研究グループは、長期的な温暖化傾向と1998年ごろに起きた気候シフトにより、北海道内の代表的なワイン用ブドウ産地の後志地方の余市町や空知地方で高級赤ワインの代表品種である「ピノ・ノワール」の栽培が可能となったことを明らかにした。この結果は、北海道内で高品質のワインの生産がさらに拡大する可能性を示すものである。

 

広がりはじめたピノ・ノワールの栽培

北海道は、長い冬(低温)や寒い夏(冷害)など、その〝寒さ〟から、ワイン用ブドウの栽培の気候的な北限と呼ばれており、栽培できる品種は寒冷な気候に適合する清見、セイベル13053、ツバイゲルト、ミュラー・トゥルガウ、ケルナーなどの品種に限られていた。

フランスのブルゴーニュを原産とする高級赤ワイン用ブドウ品種であるピノ・ノワールは、国際的にもブランド力の高い品種であり、かつ比較的冷涼な気象条件を好むことから、北海道でも明治時代から着目され、試行錯誤しながら導入が試みられてきたが、20世紀末までに導入の成功例はなかった。

しかし、21世紀に入ると、道産ピノ・ノワールによる赤ワイン栽培と醸造の成功例が広がりはじめ、現在では北海道のワイン用ブドウ栽培農家の中で、今後拡大したいブドウ品種の一番人気はピノ・ノワールで栽培面積が最も拡大しており、北海道のワイン生産推進の大きな原動力となっている。さらに、それに応じるように、1999年までは10ヵ所以下だった道内のワイナリーの数は2000年以降急増し、2017年8月末時点では33ヵ所(ブドウ以外を原料とするワイナリーを除く)となっている。

 

温暖化と気候シフトの影響か

ピノ・ノワールが近年栽培可能となった背景については、温暖化が一つの理由として考えられるが、その詳細はこれまで十分に解明されていなかった。一方、農研機構の研究グループでは、北半球における高層大気場と海水面温度を用いた統計解析から、1998年を境に北海道を含む北日本で気候シフトが生じたことを明らかにしている。また、1998年の境界年は、空知地方の三笠市でのピノ・ノワールによる最初の成功事例での栽培開始時期と一致する。このため、現在の北海道のワイン生産の推進力となっているピノ・ノワールがなぜ、北海道で栽培可能となったかについて、1998年の気候シフトに着目した上で解析が行われた。

 

気候シフト以降、4月~10月の平均気温は14~16℃の適温域に

1998年の気候シフト以降、4月から10月までの期間の平均気温は、北海道を代表するワイン用ブドウ産地である後志地方の余市町や空知地方の三笠市では、14℃以上をほぼ安定的に上回っている。これは、欧米の研究で指摘されていた世界のピノ・ノワール産地と呼ばれている地帯の温度帯(適温域:4~10月の期間の平均気温で14~16℃)と一致していた。

このほかにピノ・ノワールが現在栽培されている上川地方の上富良野町も、4月から10月までの期間の平均気温が1998年以降、14℃以上の適温域に入り、さらに2010年以降はオホーツク地方の北見市や、石狩地方の札幌市藤野も栽培の適温域に入る傾向が見られた。

また、現存する道内ワイナリーの中で最も歴史のある十勝地方の池田町は、現時点では4月から10月までの平均気温がピノ・ノワールの適温域である14℃以上に達していない。一方、新たにピノ・ノワールを含めワイン用ブドウ栽培に取り組み始めた同じ十勝地方の芽室町は、近年、同時期の平均気温が14℃以上となる年も現れはじめている。

さらに、十勝地方の池田町のビンテージチャートの評価から、1998年以降は良質なワイン用ブドウを生産できる傾向にあることも判明。北海道各地域における気象の違いは当然あるものの、各地域と北海道全体の気温の年々変動の傾向は同じとみなせるため、ここで示された結果は、北海道のブドウ産地では質の良いワイン生産ができる傾向が高くなっていることを示している。

 

将来的に栽培可能地の拡大、生産できる品種の選択も増加

国内外では、日本国内で生産されたブドウで醸造する「日本ワイン」の需要が高まっている。また、酒類の地理的表示制度や産地表示の厳格化が進んでおり、その中でブドウ生産地では質の高いワイン造りができる品質の良いブドウの生産を増やし、生産地のブランドイメージを向上させることがこれまで以上に重要となる。その一環として、後志地方や空知地方を中心とした北海道内の先進的な生産現場では、ピノ・ノワールよりもさらに栽培適温が高い欧州系のブランド品種であるシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロー等の栽培も図られている。

今回の研究で得られた結果については、今後、道内でピノ・ノワールの栽培可能地が拡大し、さらには生産できる品種の選択肢が増え、品種構成が多様化することで、作業適期を分散させることが可能となることも予想できる。その結果、道産ブドウによる高品質のワイン造りの拡大ばかりでなく、大規模化や気象リスクの回避に取り組むことも可能となり、道内のワイン用ブドウ農家の生産意欲をさらに高めると期待されている。


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