2022年1月19日 二極化進む学生メンタルヘルス 岐阜大助教がコロナ禍の意識調査を実施

コロナ禍で〝死にたい〟気持ちを強く抱える大学生の割合は年々増加する一方で、感じない学生も一定数存在―。新型コロナウイルス感染症の拡大は未だ終息に至らず、大学生のメンタルヘルスへの影響は大きな社会問題となっている。岐阜大学保健管理センターの堀田亮助教は、同大の新入生を対象にアンケート調査を実施し、二極化しているコロナ禍での大学生のメンタルヘルスの実態を明らかにした。この研究は、感染拡大前(2019年)、感染拡大直後(2020年)、感染拡大1年後(2021年)の3年間の結果を比較検討したもので、コロナ禍の長期的影響を実証しており、新たな視点と多大なインパクトを与えることが期待される。

この研究成果は1月13日にパブリック・ライブラリー・オブ・サイエンス社発行のPLOSONE誌のオンライン版で発表された。

 

「コロナの影響」判別付かない研究散見

コロナ禍が大学生のメンタルヘルスに与えた影響に関しては、これまで国内外で多くの研究結果が公表されてきた。しかしながら、それらは感染拡大後に一時点だけ調査を行った研究が多く、コロナ禍の影響が反映されているのか、もしくはコロナ禍に関わらず元来の大学生の精神的健康度が反映されたに過ぎないのか、判別のつかない研究も散見される。

そこで、堀田助教の研究では感染拡大前(2019年)と感染拡大直後(2020年)のデータを比較することにより、コロナ禍の影響を実証しようと試みた。さらに、感染拡大1後(2021年)のデータとも比較することにより、感染拡大の長期的影響の検討も試みた。

研究では、2019年4‐5月、2020年4‐5月、2021年4‐5月の期間に、各年度の岐阜大の新入生を対象にアンケート調査を実施した。調査にはCCAPS(大学生のための心理・精神症状評価尺度)という国際標準の指標の日本語版を用いた。CCAPSの日本語翻訳作業も堀田助教が手掛け、別の研究成果として発表している。

調査の結果、感染拡大直後(2020年)は他の年度と比べて、むしろ抑うつや不安をあまり感じていないことが明らかとなった。感染拡大直後の学生はこうした精神症状よりも、現実感のなさを他の年度よりも強く感じていたことが示されており、急激な環境の変化によって「何が起きたかわからない」まま時間が過ぎ去っていると感じていたのかもしれない。

 

オンライン授業への適合が影響

また、感染拡大1年後(2021年)は、感染拡大直後に比べて高い抑うつや不安を感じていることが明らかとなったが、平均値上では感染拡大前(2019年)の水準に戻ったという結果が得られた。

しかし、死にたい気持ち(希死念慮)を強く抱える学生の割合は年々増加傾向にあり、こうした学生を早期に発見し、支援する体制の拡充が求められる結果も浮き彫りとなった。一方で、希死念慮を全く感じない学生の割合も増加しており、コロナ禍によって適応を回復した(コロナ禍に適応した)学生が一定数いることも窺われた。こうした結果は、コロナ禍によるメンタルヘルスの二極化の漸進を示唆している。

学業に関するストレスは感染拡大直後が最も高く、これはオンライン授業への適応の難しさを示していると考えられる。しかし、感染拡大1年後は感染拡大前と同じ水準に戻ったことから、2021年度の新入生は、高校時(2020年度)にオンライン授業を経験している学生も多く、堀田助教は、「2020年度の新入生に比べれば、大学に入ってからもそれほど抵抗なく、準備、適応できていると思われる」としている。

新入生のストレス状況は、2021年になり新型コロナウイルス感染症の感染拡大前(2019年)の水準に平均値上では戻ったことが示されたが、重篤な精神的不調が示唆される学生の数は増加。こうした学生を早期に発見し、支援できる体制を整備することは高等教育機関の喫緊の課題と考えられる。堀田助教は、今後は調査時期や対象学年を広げながら、継続的に調査を実施することで、いつ、誰に、どのような支援が必要となるかが、より明確になることが期待されるとしている。


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