2018年5月31日 事例集とマニュアルを公開 農地の生物多様性を保全するための技術・手法を開発

農研機構を中心とする研究グループは、果樹園や水田といった生物多様性を保全する農地の管理技術として、環境負荷の低い農薬の使用方法や、果樹園での下草管理方法、水田における小水路や畦畔の管理方法を開発した。また、これらの環境に配慮した取り組みによる生物多様性の保全効果を客観的に評価する方法として、サギ類などを指標に生物多様性の豊かな水田を判定する新手法も開発した。この評価法では、指標生物としてサギ類やその餌となる魚類、クモ・昆虫類などを選択し、それらの個体数・種数をもとにスコア化して総合判定を行う。

農地の管理技術については事例集、生物多様性の豊かさを評価する手法については調査・評価マニュアルが作成されており、農研機構のウェブページ等で公開されている。

これらの研究成果については、農業者や自治体が環境に配慮した農業を実践し、その取り組みによる生物多様性の保全効果を客観的に評価するのに役立つと注目されている。また、環境に配慮した農業の生産物であることを科学的に示すことにより、農産物の付加価値の向上、ブランド化に貢献することも期待されている。

 

農業の生物多様性保全効果の評価手法 より分かりやすい指標が求められる

近年、集約的な農業生産技術の普及や社会環境の変化による、農地やその周辺における生物多様性の損失や、それに伴う生態系サービスの劣化として、害虫発生を抑制する天敵や花粉を媒介する昆虫の減少などが懸念されている。

生態系サービスを損なうことなく、持続的な農業生産を実現するためには、生物多様性に配慮した農業の取り組みを普及する必要があり、そのためのツールとして、農業による生物多様性の保全効果を科学的に評価する手法の開発が急務となっていた。

環境に配慮した農業の取り組みとしては、総合的病害虫・雑草管理(IPM)や環境保全型農業が知られている。しかし、具体的にどのような農地管理法が生物多様性を保全する効果が高いのかは、これまではっきり示されていなかった。また、生物多様性を評価する手法に関しては、これまでにも農業に有用な天敵生物(クモ・昆虫類など)を指標とする評価法が開発されており、2012年3月に調査・評価マニュアルが公開されている。しかし、もっと特徴的で見つけやすく、消費者にもなじみがある指標が欲しいという要望が寄せられていた。

そこで、研究グループは、生物多様性を保全する農地管理技術を事例集として明示するとともに、わかりやすく認知度の高い生物を用いて生物多様性を評価する新たな指標の開発に取り組むこととした。

 

生物多様性を保全するための管理技術

今回の研究により、果樹園(リンゴ・カキ・ナシ)と水田において、農業に有用な生物多様性を保全するための農地管理技術が開発された。環境負荷の低い農薬の使用方法、果樹園における草生栽培などの下草管理方法、水田での小水路設置や畦畔管理方法など、今回開発された管理技術については、実証試験により生物多様性を保全する効果が高いことが明らかになっている。

 

生物多様性の豊かさを評価する手法

研究では、全国規模の調査を元に、サギ類などを用いて水田における生物多様性の豊かさを評価する手法が開発された。この手法では、評価の基準となる指標生物として、サギ類やその餌生物から1種類、クモ・昆虫類から1種類、さらに本田・畦畔の指標植物を選択して調査を行う。それらの個体数(植物は種数)をスコア化(0~2点)し、その合計スコアで「非常に良い」、「良い」、「やや悪い」、「悪い」の総合評価を行う。絶滅危惧種などの希少種が見つかった場合は特典として各指標生物のスコアに1点を加えることとしているが、希少種の調査は必ずしも必要でははない。サギ類は魚や両生類を餌としており、水田生態系の食物連鎖の頂点に位置する生物であるため、この手法は生態系の生物全体を把握できる包括的な評価指標と言える。

生物多様性の保全効果の高い農地(果樹・水田)の管理技術については、現場ですぐに活用できる事例集が公開されている。また、生物多様性の豊かさを評価する手法については、調査・評価マニュアルが公開されており、この中では生物の専門家でなくとも利用しやすいよう、多数の写真と分かりやすい解説が掲載されている。

 

農産物の付加価値の向上やブランド化に期待

今回の研究成果は、農業者や自治体が環境に配慮した農業を実践し、その取り組みによる生物多様性の保全効果を客観的に評価するのに役立つと期待されている。また、環境に配慮した農業の生産物であることを科学的・客観的に示すことで、農産物の付加価値の向上やブランド化に繋がると期待が集まっている。


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