2021年12月20日 メタン産生抑制効果の新規細菌種を発見 牛のげっぷ由来のメタン排出削減への貢献に期待

農研機構は、乳用牛の第一胃から、プロピオン酸前駆物質を既知の近縁菌より多く産生する新種の嫌気性細菌を発見した。

牛は、第一胃に共生する微生物の作用により飼料を分解、発酵し、発酵で生じるプロピオン酸などの短鎖脂肪酸を主要なエネルギー源として利用している。今回の研究では、農研機構が保有する胃液中のプロピオン酸濃度の高い乳用牛から、コハク酸、乳酸、リンゴ酸などのプロピオン酸前駆物質を産生する新規の嫌気性細菌(Prevotella属細菌)を分離した。この菌は、第一胃内に生息する既知のPrevotella属細菌よりもプロピオン酸の前駆物質を多く生成する特徴がある。

第一胃でプロピオン酸が多く産生されると、メタン産生が抑制されることが知られている。この菌の発酵機能や増殖促進条件を明らかにすることで、乳用牛のげっぷ由来のメタン排出削減、さらには地球温暖化の緩和に貢献すると期待される。

また、プロピオン酸産生の促進は飼料利用性の改善にもつながることから、今回の研究成果は乳用牛の生産性向上にも貢献すると期待されている。

 

地球温暖化の原因の一つである「牛のげっぷ」

牛などの反すう動物のげっぷには、消化管内発酵により産生する温室効果ガスであるメタンが含まれている。牛1頭からは1日あたり200~600リットルのメタンがげっぷとして放出されている。反すう家畜の消化管内発酵に由来するメタンは、全世界で年間約20億トン(CO2換算)と推定され、全世界で発生している温室効果ガスの約4%(CO2換算)を占める。このため、地球温暖化の原因の一つと考えられている。

一方、反すう動物にとってメタンを大気中に放出することは、飼料として摂取したエネルギーの2~15%を失うことになる。そのため、家畜として飼養されている反すう動物からのメタン産生量の削減は、「地球温暖化の緩和」や「反すう家畜の生産性向上」の両面で期待されている。

乳用牛の第一胃内では、微生物による発酵が行われているが、同じ飼料を同じ量摂取した場合でも第一胃内発酵に個体差があり、プロピオン酸やメタン産生量などに影響する。また、第一胃内でプロピオン酸が多く産生されると、メタン産生が抑制されることが知られている。プロピオン酸産生が盛んな第一胃内発酵の仕組みを解明し、その産生を促進することでメタン削減と生産性向上を両立できる技術の開発が期待されている。

 

既知のPrevotella属細菌と保有する遺伝子や生理特性が異なる

牛などの反すう動物には胃が4つあり、そのうち第一胃と第二胃には胃内用液1リットルあたり10兆個以上の微生物(細菌、古細菌等)が生息し、牛が摂取する飼料の分解に貢献している。プロピオン酸やメタンは、それぞれ細菌や古細菌の代表的な代謝産物である。

第一胃内細菌の代謝産物のうち、短鎖脂肪酸にはプロピオン酸のほかにも酢酸や酪酸などがあり、多くの細菌は主に酢酸を生成している。一般的に短鎖脂肪酸中のプロピオン酸の割合は15~20%程度である。代表的な第一胃内細菌は約2400種が知られているが、特殊な栄養環境であるため、培養可能なものは2割程度で、機能の分かっていない細菌が未だ多いのが現状である。

今回の研究で分離した細菌株は、Prevotella属に分類されるが、既知のPrevotella属細菌とは保有する遺伝子や生理特性が異なる新種の細菌であることが分かった。

この細菌は、既知のPrevotella属細菌よりもプロピオン酸の前駆物質を多く産生する特徴がある。

 

「持続可能性」と「生産性」の向上の両立を目指す技術への発展に期待

反すう家畜の頭数は世界的に増加しており、げっぷに由来するメタンは今後さらに増えると見込まれている。一方で、世界では地域によって様々な飼育管理方法が取られるため、複数のメタン削減技術の開発が不可欠である。

今回の研究では、メタン削減という持続可能性の向上とプロピオン酸産生の増加という生産性の向上の両立を目指した技術への発展が見込まれる。今後、この細菌による飼料分解や発酵機能、第一胃内での増殖促進条件を明らかにすることで、乳用牛をはじめとした反すう家畜での生産性向上やメタン削減への貢献が期待される。


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