2019年3月4日 コムギの粒数を制御する遺伝子を発見 「きたほなみ」の多収の秘密が明らかに

農研機構と鳥取大学、北海道総研、ドイツのライプニッツ植物遺伝学・作物研究所、イスラエルのヘブライ大学他の研究グループは共同で、コムギの着粒数を制御する遺伝子「GNI1」を発見した。

コムギの品種改良では、株あたりの穂数の増加に加え、一穂に着く種子の数(着粒数)の増加によって収量増大が達成されてきたが、粒数を制御する遺伝子はこれまで明らかにされてこなかった。

研究では、GNI1遺伝子がコードするタンパク質の105番目のアミノ酸がアスパラギンからチロシンに変わることにより、コムギの一小穂あたりの粒数が10%程度増えることが明らかになった。さらに、実験ほ場における収量性試験を実施した結果、穂あたりの粒数の増加によって収量も10~30%高くなることが確認された。日本の多収性コムギ品種である「きたほなみ」は、チロシン型のGNI1遺伝子を持っている。

チロシン型のGNI1遺伝子は、普通系コムギ(パンコムギ)の一部品種やデュラムコムギでしか利用されていない。今後は、この遺伝子に着眼したDNAマーカー選抜育種やゲノム編集による新品種開発などへの応用が期待される。

 

研究の背景に多収性品種開発への期待 Vrs1と同機能を持つ遺伝子の探索

2017年度のわが国のコムギの自給率は約14%で、供給の多くを海外に依存しているが、近年、コムギの国際価格は高騰する傾向にある。また、国民の安心・安全志向から国産コムギの需要も増加している。

こうした状況下で国内のコムギ供給を安定化させるためには、自給率の向上が必要となる。その方策の一つとして多収性品種の開発に期待が集まっている。

農研機構(当時、農業生物資源研究所)では、2007年にオオムギの粒数を多くする遺伝子「Vrs1」を発見している。麦類の遺伝子は植物種の間で類似性が高く、コムギにもオオムギと同様の機能を持つ遺伝子が存在することが予想された。そこで、コムギでVrs1と同じ機能を持つ遺伝子を探索することとした。

 

一小穂あたりの粒数を決定する 遺伝子「GNI1」を発見

今回の研究では、デュラムコムギ品種から、一小穂あたりの粒数を決定する遺伝子「GNI1」を発見した。

具体的には、品種間の比較から、デュラムコムギや普通系コムギにおいて、多収型の品種ではGNI1がコードするタンパク質の105番目のアミノ酸が、アスパラギン(105N)からチロシン(105Y)へ変化していること、また、日本の多収性コムギ品種である「きたほなみ」は105Y型の遺伝子を持っていることが分かった。

また、GNI1は、植物にだけ存在する転写因子の一つであるHD‐ZIPⅠ型タンパク質をコードする遺伝子だった。このタンパク質の105位のアミノ酸はDNA結合ドメインの中にあり、105Nから105Yへの変化により、DNA結合機能が弱まり、着粒数を増加させる他の遺伝子の機能をこのタンパク質が抑制する効果が低下することにより、着粒数が増加することが分かった。

さらに、RNA干渉により、普通系コムギでGNI1遺伝子の働きを抑制したところ、一小穂に付く粒の数が上昇した。この結果から、GNI1がコードするタンパク質の105位のアミノ酸の変化だけでなく、GNI1遺伝子の活性(転写量)の制御によっても、着粒数が増えることが確認された。

次に、きたほなみのGNI1遺伝子に突然変異を誘発した系統を複数得て、その中から遺伝子が105N型に変異した系統を作出し、元品種や元品種と同じ105Y型の分離系統と着粒数を比較した。その結果、105Y型の系統は、105N型の系統に比べ一小穂あたりの粒数が約10%多いことが分かった。

また、実験ほ場で収量を比較した結果、105Y型の系統は、105N型の系統に比べて収量が10~30%高いことが確認された。これらの結果は、一小穂に付く粒の数が多くなることによって実際に収量が向上すること、「きたほなみ」の多収性にGNI1遺伝子が大きく寄与していることを示している。

 

「きたほなみ」の育成系譜を調査

日本の多収性コムギ品種であるきたほなみは、105Y型の遺伝子をもっている。その育成系譜を調べると、105Y型のほかに105N型や105K(リシン)型の品種や系統があるが、105Y型の遺伝子を持つ品種や系統は一小穂に付く粒の数が多く、さらにこの遺伝子がイギリスの「Norman」という品種に由来することがわかった。

 

多収コムギ品種の育成促進に期待 収量性改善への応用にも期待が集まる

今回発見された105Y型のGNI1遺伝子は、デュラムコムギでは広く使われていることが明らかになったが、普通系コムギでは一部品種でしか利用されていない。今後、105Y型のGNI1遺伝子をDNAマーカーで選抜することにより、多収コムギ品種の育成が促進されると期待される。また、ゲノム編集による遺伝子改変を用いた収量性改善への応用にも期待が集まっている。


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