2020年8月3日 クロスアポイント活用で追補版 インセンティブ促進や契約面の課題を整理

文部科学省と経済産業省は、大学等と企業の間の人的交流をより深化させることが期待される「クロスアポイントメント制度」をさらに推進するため、大学・企業間における同制度の効果的な活用方法などを整理した「クロスアポイントメント制度の基本的枠組と留意点【追補版】」をとりまとめた。制度促進に主眼を置き、精度を活用する研究者らへのインセンティブ=混合給与の促進や、制度導入に向けた手続きの明確化、労務・知財管理などの契約面における課題を整理した。

 

大学と企業間の活用を主眼に

追補版では、①特に大学等から企業への制度利用する研究者らに対するインセンティブの付与を推奨した大学等‐企業間におけるクロスアポイントメントの活用方法、②これまで個別調整に委ねられてきたクロスアポイントメントの実施における労務管理などについての法・契約に関する事務手続きを明確にすること、の2点について主に整理を行った。

新たなイノベーションを創出するためには、大学や公的研究機関の技術シーズが円滑に民間企業に「橋渡し」されることが重要で、同時にそれぞれの組織間の人材の流動性を高めることが必要。特に産学連携においては、大学における研究の目的と企業のねらいが異なることから、大学と企業の両方の経験を持った人材が、産学連携を実施する上での大きな推進力となる場合が多い。大学と企業の間の人材流動を進めるためには、「兼業」と「クロスアポイントメント」の大きく2つのスキームを活用できる。

兼業は、大学の研究者が産学連携による研究や技術顧問で企業にアドバイスしている事例など、一般的なスキームとして活用されている。また、兼業で企業の社員が、大学の非常勤教員や特任教員といったポストに就いている事例も増えてきている。

一方、クロスアポイントメントは、労働者が2つ以上の機関に雇用されつつ、それぞれの機関で求められる役割に応じて従事比率に基づき就労することを可能とする制度。統合科学技術・イノベーション会議が策定した「統合イノベーション戦略2019」では、人材流動性の向上や若手の活躍機会創出のために、クロスアポイントメントの積極的な活用が推奨されている。

それぞれの機関に正式雇用される形態となるクロスアポイントメントは、両機関に深く根差した活動ができるという点に特徴がある。特に産学連携の大規模化を目指した組織対組織の産学連携においては、クロスアポイントメントを実施している研究者らが大学の技術シーズと企業戦略の双方を理解した上で、共同研究のテーマや課題設定に関わるなど、産学協働で解くべき課題から検討する事例なども見られる。

 

リモートワークで多様化

また、2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、デジタル技術の活用によるリモートワークなどが急速に社会に浸透し、物理的な距離が問題とならないような環境が整備され、多様な選択肢が生まれつつある。これにより、例えば、北海道の大学教員が、移動を伴うことなく、沖縄の大学の業務を遠隔で行うことも可能になる。地理的・時間的制約を考慮せずに、兼業やクロスアポイントメントを行う環境も整ってきている。人材の流動性を高めるために、これまでの延長線上でない柔軟な対応が必要となりつつある。

ところが、大学‐大学間・大学‐国研間でのクロスアポイントメントの活用は進んでいるが、大学等‐企業間のクロスアポイントメントを実施している事例は少ない。特に大学等から企業へのクロスアポイントメントの事例はごく一部にとどまる。背景には、制度利用する研究者らへのインセンティブや、調整・実施まで手続きが煩雑であることや、労務管理などに不明があることなどがあった。

今回の追補版で扱うクロスアポイントメントは、これまでも多く利用されてきた出向の形態である「在籍型出向」形態を利用したクロスアポイントメントを想定している。数ある産と学の連携手法の中で、クロスアポイントメントもそのうちの一つとして認知され、活用の幅が広がることが期待される。


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