2017年7月11日 エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見 かんがい農地で農作物の収量増産に期待

理化学研究所環境資源科学研究センター植物ゲノム発現研究チームの関 原明チームリーダー、佐古 香織特別研究員、横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科のフォン・マイ・グエン大学院生らの研究グループは、JST戦略的創造研究推進事業の一環として、エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見した。

世界のかんがい農地では、その約20%で塩害が発生しており、作物の成長や収量に大きな被害をもたらしている。このため、こうした塩害から植物を守る技術の開発が望まれている。

こうした中、研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナとイネの解析等を行い、エタノールが活性酵素の蓄積を抑制することによって耐塩性を強化することを明らかにした。今後、この研究を発展させることで、耐塩性を強化し作物の収量増産につながることが期待される。

この研究は、農研機構生物機能利用研究部門の土生 芳樹ユニット長、理化学研究所環境資源科学研究センター発現調節研究ユニットのラムーソン・ファン・チャンユニットリーダとの共同で行われたものである。

 

【農作物の生産に悪影響を与える「塩害」】

塩害は、かんがい農業による塩類集積や海沿いの地域で生じ、農作物の生産に大きな悪影響を及ぼしている。植物は高濃度の塩によるストレス(高塩ストレス)にさらされると、根からの水分の吸収の阻害や光合成の低下などが生じる。また、活性酸素の蓄積が誘導され、細胞死が引き起こされる。世界の人口が増え続けている中で、持続的な食糧生産を維持するために、塩害に強い作物や肥料の開発など早急な問題解決が求められている。

 

【活性酸素の蓄積の抑制で耐塩性を強化】

研究グループは、シロイヌナズナを用いた解析から、エタノールを投与する処理によって耐塩性が強化されることを発見した。次に、耐塩性強化のメカニズムを明らかにするため、網羅的な遺伝子発現解析を実施したが、その結果、高塩ストレスによって発生する活性酸素の除去に働く遺伝子群の発現が、エタノール処理によって増加することが分かった。

また、活性酸素の一種である過酸化水素を消去するアスコルビン酸ペルオキシダーゼの活性も増加することを明らかにした。実際に、シロイヌナズナでエタノール処理が活性酸素の蓄積を抑制することが示された。さらに、イネでもエタノール処理によって活性酸素の蓄積が抑制され、耐塩性が強化されることを見出した。

これらの結果から、単子葉植物・双子葉植物のいずれにおいても、エタノールは活性酸素の蓄積を抑制することによって耐塩性を強化することが示された。

 

【農作物を塩害に強くする肥料の開発】

今回の研究では、安価で入手が容易なエタノールが植物の耐塩性を強化することを発見した。この成果を応用することによって、かんがい設備の設置が経済的に困難な地域などで、農作物を塩害に強くする肥料の開発や、それに伴う収量増産が期待できる。


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