2022年3月9日 イノシシ出没ハザードマップを作成 岩手県での分布拡大の変遷から出没確率を予測

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所と岩手県立大学の研究グループは、岩手県で分布域を拡大しているイノシシの出没を予測するハザードマップを作成した。

宮城県南部以北のイノシシは明治期に一度絶滅したが、近年になり再度分布域が北方に拡大している。岩手県でも2007年に目撃されて以来、現在はすでに県全域で確認されるようになった。

今回の研究では、岩手県におけるイノシシの出没の変遷をまとめ、2007年~2010年を移入期、2011年~2017年を拡大期、2018年以降を定着期と呼べることを示した。さらに、種の分布モデルを用いた機械学習法により、岩手県内の出没予測図の作成を試みた結果、標高・植生・土地利用の3つの環境データを用いることで、精度の高い出没予測図を作成することができた。

出没確率が高い地域では、現在まだイノシシが出没していなくても、今後出没し被害の発生が危惧される。そのため、この出没予測図をハザードマップとして用いることができる。また、岩手県と自然環境が似ており、最近になって目撃情報の相次ぐ青森県三八上北地方にもこのハザードマップは適用できると考えられる。さらには、全国各地で分布域が拡大しているシカ、サル、クマ類でも、同様の手法でハザードマップを作成し、被害防除に活用できると期待される。

 

東北地方で拡大するイノシシの分布 懸念される農作物や人身への被害

北海道を除く日本全国の森林でイノシシの分布域が広がっており、それに伴い農作物被害や人身被害が問題となっている。

東北地方では、かつてはイノシシが広く分布していたものの、明治期に東北地方の多くの地域で絶滅した。それ以降100年近く宮城県南部がイノシシの分布域の北限となっていたが、2000年ごろから分布域が北方に拡大し、2007年に岩手県で明治期の絶滅以降初めて目撃された。その後、分布域の拡大が続き、2017年には青森県への侵入が確認された。

 

イノシシの出没状況の変遷を整理 移入期から拡大期、定着期に移行

研究グループは今回、岩手県内のイノシシの出没状況の変遷をまとめ、今後の出没予測図を作成した。

2007年に県南部の奥州市で1件目撃されたのが岩手県での最初の目撃だったが、その後2010年まで岩手県内では目撃されなかった。2011年より県南部を中心に目撃が増え、2018年には県内全域で目撃されるようになった。イノシシによる農作物被害は2012年に初めて発生し、2014年から2017年にかけて増加した。

この状況から、2007年~2010年を岩手県におけるイノシシの移入期、2011年~2017年を拡大期、2018年以降を定着期と定義。なお、岩手県内では、現時点でまだイノシシによる人身被害は発生していないため、被害はすべて農作物被害を指している。

 

出没データを用いて出没予測図を作成 ハザードマップとしての活用に期待

研究では、2007年以降の岩手県内の出没データ(目撃、被害、捕獲情報をまとめたもの)を用いて、種の分布モデルにより出没予測図の作成を実施。予測をするために、標高・植生・土地利用・人口・年間最大積雪深の5つの環境データが用いられたが、これらは国土地理院や政府が公開しており、誰でも無料でウェブサイトからダウンロードして使うことができるオープンデータである。

5つの環境データの全組み合わせで予測図を作ったところ、標高・植生・土地利用の3つを用いた際に最も信頼度の高い予測図ができた。さらに、2007年~2017年の出没データを用いて作成した予測図と、2018年と2019年に出没した地点を比較したところ、出没の予測確率が高い地域ほど実際に出没していることが確認されている。

予測に用いるデータ量が多いほど作成される予測図の信頼度が高くなることも確認されたため、2019年までの全データを用いて作成した出没予測図は、今後のイノシシ出没のハザードマップとして使うことができると期待されている。

また、研究グループは、今回の予測はあくまでも「出没確率」であり、「生息確率」ではなく、人が住んでいない標高が高い地域や森林などでは目撃や被害発生などの「出没」を確認することはなくても、すでに生息している可能性があるとしている。

 

イノシシの被害対策での活用に期待 他地域でも独自のマップを作成可能

今回の研究で作成したハザードマップを、岩手県と県内各市町村で情報共有することにより、イノシシの被害対策に役立てることができる。さらに、すでにイノシシが侵入してしまった青森県でも、太平洋側の三八上北地域では岩手県と自然環境が似ているため、岩手県での出没データをそのまま青森県に適用して出没ハザードマップを作ることができる見通しだ。

また、今回用いられた手法は、地域は限定しないため、北陸のように東北以外でイノシシの分布域が拡大している地域でも、同様の手法でその地域独自のハザードマップを作成することができる。さらには、ニホンジカ、ニホンザルなどのように各地で分布域を広げて森林被害や農作物被害が発生している動物に対してもこの手法は応用できると考えられる。


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