2022年4月21日 「花粉媒介昆虫調査マニュアル」増補改訂版公開 農地で花粉を運ぶ昆虫を簡単に調査

農研機構は3月28日、花粉媒介昆虫の調査法を解説したマニュアルの増補改訂版をウェブサイトで公開した。花粉媒介昆虫は、果樹や果菜の栽培において、花粉を運ぶ大切な役割を担っており、もし生産者自身が野生の花粉媒介昆虫の働きを把握できれば、人工授粉の要不要などを自ら判断することができる。増補改訂版は、調査法の簡便化、昆虫写真の充実に加え、全国各地の調査事例を掲載しており、より実践的なマニュアルとなっている。

 

野生花粉媒介昆虫の実態把握と有効利用に向けた調査法への期待

世界の主要な農作物の75%以上は昆虫類や鳥類・哺乳類などの花粉媒介者に依存している。こうした送粉サービスをわが国の農業生産について評価すると、約4700億円に相当すると試算されている。一方、近年の気候変動や生態系の劣化等の影響により、世界的に花粉媒介昆虫の減少が指摘されている。受粉が必要な果樹・果菜類を安定的に生産するためには、野生花粉媒介昆虫の実態を把握し、それらを有効に利用するための知見を蓄積する必要がある。しかし、その実態を調査する標準的な手法は確立されていなかった。

果樹・果菜類の栽培では、野生花粉媒介昆虫の受粉に対する寄与が把握できないために、補助的な人工授粉やミツバチの巣箱導入等が行われている。そのため、これらの生産には必要以上に労働力や経費が投入されている可能性がある。こうした状況は、高齢化が進む生産者にとって経営の継続を困難にするだけでなく、生産規模拡大の障壁になっていると考えられる。

 

実践的なマニュアルにするために調査

農研機構では、共同研究機関とともに、わが国の主要な果樹としてリンゴ、ニホンナシ、ウメ、カキ、果菜としてカボチャとニガウリを対象とした「果樹・果菜類の受粉を助ける花粉媒介昆虫調査マニュアル」を令和2年度末に公表した。このマニュアルは公設試験場や普及機関における試験研究の支援を目的として、各作物の主要な花粉媒介昆虫群を紹介し、それらの訪花頻度を評価するために確立した標準的な調査手法を解説している。

また、令和3年度の取組として、より実践的なマニュアルに改良するため、生産者等にマニュアルに沿った調査の試行を依頼し、調査手順の煩雑さや課題について聞き取りを行った。その結果、調査手順に困難は伴わないものの、調査に要する時間や労力を軽減してほしいという要望が寄せられた。さらに、利用者の調査結果を他の調査事例と比較できるように、全国各地の試験場や果樹園・野菜畑での調査を実施し、花粉媒介昆虫の訪花頻度と果樹・果菜類の結果率(実になった花の割合)を明らかにした。

 

増補改訂のポイント

今回の増補改訂では、調査方法を簡便化し、調査者にかかる負担を軽減している。一例として、ニガウリの標準的な調査法として、これまでのマニュアルでは午前中に4回の調査を推奨していたが、ミツバチ類やマルハナバチ類などニガウリの主要な花粉媒介昆虫の訪花は早朝に多いため、増補改訂版では早朝を含む1~2回の調査に変更している。

また、訪花昆虫の種類を見分ける際に参照できる写真を多数掲載した。現場で見つけた訪花昆虫とこれらの昆虫写真を比較することで、大まかに種類を見分けられるようにした。より細かく種類を見分けたい場合には昆虫を捕獲してルーペや顕微鏡で観察する必要があるため、初心者向けの解説記事を新たに追加した。

さらに、全国各地の試験場や生産者の果樹園・野菜畑における花粉媒介昆虫の調査事例を掲載した。調査者が得た結果をこれらの事例と比較することで、調査地における花粉媒介昆虫の豊かさを相対的に評価することができる。調査事例には果樹・果菜の結果率も含まれているため、どの程度の訪花頻度であれば十分な結果が期待できるかについての目安を得ることができる。

このほか、「ハナバチ類の生態」、「ウメと花粉媒介昆虫」、「ウメの交配用蜂の巣箱の設置」、「訪花昆虫と外来種の問題」、「昆虫をもっと観察するために」、「おススメの書籍」など、果樹・果菜類の花粉媒介昆虫についてのコラム(読み物)も充実させている。全体を通し平易で読みやすく、昆虫の写真も数多く掲載されており、農業生産者だけでなく、農業や生態学を学ぶ学生など、一般の人にも活用してもらえるような内容となっている。

 

より経済的な営農の推進に期待

今回公開されたマニュアル増補改訂版を活用することで、公設試験場や普及機関における試験研究だけでなく、生産者自身が果樹園・野菜畑における野生花粉媒介昆虫の訪花状況を把握することが可能になった。その結果、送粉サービスが不十分である場合には授粉管理を省力化し、より経済的な営農を推進できると考えられる。


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