2016年9月5日 「満月と出産」は関係あり 東大研究グループが科学的に解明

昔から「満月の頃に出産数が増える」ということが言われているが、東京大学の研究グループは、こうした古くから伝えられてきた〝俗説〟を科学的に解明した。ウシの出産日と月齢周期の関係から明らかにしたもので、満月の前から満月にかけての3日間では、ウシの出産数が有為的に増加したという。研究グループでは、月光による体内ホルモンの分泌変化が関与しているという仮説を立てて、さらなる研究を計画しており、出産メカニズムの深い理解や出産計画を立てる際に役立つことが期待される。

この研究を行ったのは、東大大学院農学生命科学研究科の米澤智洋准教授らの研究グループ。

産科医やウシの農家は「満月の頃に出産数が増える」という実感をもっているが、これが科学的かつ明確に示された論文はない。むしろ人の大規模調査では否定的な結果がいくつも報告されており、多くの専門家は月齢周期と出産との関連性は懐疑的であるととらえている。

しかし、人は母親の栄養状態や社会的環境などによるばらつきが生じやすく、また、母親は自分の意思による自由な摂食が可能であるし、複雑な社会的要因によって出産までの間にさまざまなストレスがかかる。

したがって、人の疫学的な研究で有効な結論を得ることはとても難しい。さらに、月齢周期がどのようにして出産に影響を与えているかはわからないが、仮に月光による光暴露時間によるものだとすると、現代社会を生きる人のデータでは明確な結果が出せない可能性が高い。

そこで研究グループは、人より均一なデータの得られやすいウシをモデル動物として用いることにした。家畜であるウシは一様に飼育管理されており、栄養状態に大きなばらつきが生じにくい。100%人工授精による繁殖管理であるので、遺伝的多様性も人に比べて均一にすることができる。

さらに、人工授精実施日と出産日から妊娠期間を正確に求めることができる。しかもウシの妊娠期間は約280日で、人と近い。農家によっては月光をさえぎる壁や夜間照明のない環境でウシを出産させるため、より自然な状態で分娩したデータを集めることもできる。

この研究では、北海道石狩地区の夜間照明のない放し飼い形式の牛舎で一様に飼育管理されたホルスタインを対象に、出産日と月齢周期の関係を調べた。2011年から2013年までの36回の月齢周期を調査期間とし、出産日の月齢は気象庁の発表した同日夜の月齢を利用した。

延べ428頭のホルスタインの出産日と月齢の関係を調べた結果、新月から満月にかけて出産数は増え、特に満月の前から満月にかけての3日間は有意に増加。一方、満月以降は、下弦の月3日後まで出産数の低下が認められた。

この変化は初産牛に比べて経産牛で顕著にみられた。人工授精日から算出された分娩予定日が新月から三日月にあたる出産の妊娠期間は有意に延長し、満月から下弦の月にあたる出産の妊娠期間は有意に短縮していた。

こうした研究結果から、これまで関係がありそうだと言われてきた月齢周期とウシの出産との間に関連があることが統計学的に初めて示された。今回の研究では原因までは明らかにされなかったが、仮説として月による重力、潮の干満、月光などによる影響などが考えられる。


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