2017年3月16日 「水没コンピューター」長期実験 国立情報学研、2年間以上安定動作の実現へ

コンピューターの効率的な冷却のため、CPUなどが搭載されたマザーボードを水槽や海に沈めて直接水で冷やす「水没コンピューター」の研究に取り組んでいる情報・システム研究機構の国立情報学研究所(大学共同利用機関法人)アーキテクチャ科学研究系の研究チームが、スーパーコンピューターやデータセンターで使われている高性能なマザーボードを水中で長時間稼働させる実験を3月からスタートさせた。大規模コンピューターの冷却技術の確立を目指すもので、今回の実験では、水中で2年間以上安定的に動作する「水没コンピューター」の実現を目標としている。

10メガワット(1メガワットは百万ワット)級の消費電力のスパコンやデータセンターなどの大規模コンピューターは極めて大きな発熱を伴うため、冷却技術の確立が急務となっている。従来からのファンを用いた冷却だけでなく、マザーボードを水や特殊な液体に浸して冷却する液浸冷却技術が研究されている。

液浸冷却のメリットは、液体の熱伝導率が空気と比べてはるかに大きいため、より効率的な冷却が実現できること。その結果、コンピューターを高密度に設置することが可能になり、コンピューターの電力性能比の向上に貢献できることが分かっている。一方で、冷却に使用する液体が極めて高価だったり、可燃性の高い冷媒の場合は安全面への配慮が必要だったりというデメリットがある。

 

 《水槽+淡水での実験》

研究チームは平成25年11月から、コンピューターを水に浸して直接冷却する技術について研究開発を行っている。目的は、冷却の利点である「扱いやすさ」と液浸冷却の利点である「効率性」を両立する冷却技術を確立すること。平成27年3月、汎用のマザーボードに樹脂を常温で真空蒸着しコーティングを施すことで、マザーボードを水道水の中に水没させたままで動作させることに成功した。このマザーボードは昨年3月15日から6月10日まで水槽の中で動作した。

 

 《自然環境+海水での実験》

水道水を循環して冷却に使う場合、これまでの液浸冷却技術で用いられていた鉱物油などと同様に、冷媒となる水道水を冷やすための冷却設備が必要となる。研究チームは昨年夏、冷却設備を不要とするため、海中にマザーボードを設置して海水に直接排熱する実験を行った。この実験では、最長で40日間、海中でマザーボードを動作させることに成功した。

海中で「水没コンピューター」の動作に成功したことは、自然の力によるコンピューターの排熱の実現の可能性を示す。

現在、巨大なビルの一室に置かれているスパコンやデータセンターを水中に養殖カキのいかだのように設置するようにすることで、自然エネルギー発電と結び付けるなど、今後のスパコンやデータセンターの設置のあり方を大きく変える可能性がある。

 

《今回の実験の目的》

今回の実験では、スパコンやデータセンターでの利用を想定した高い演算能力を持つCPUを搭載したマザーボードを複数相互接続したPCクラスタを初めて構築する。

研究チームでは、熱を逃がす一方で電気は通さず、かつ、高い耐久性を持つコーティングの方法やマザーボードの適切な構成や改造など「水没コンピューター」の実用化に向けて必要な所見を示すことで、産業界に貢献したいという考えを示している。


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