内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の伊藤耕三プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として、北海道大学大学院先端生命科学研究院の龔(グン)教授らの研究グループは、水を大量に含んだゼリー状の材料ハイドロゲルをガラス繊維の織物と複合させることによって、丈夫さを誇る「繊維強化ゲル」の創製に成功した。

繊維強化ゲルは、曲げやすい柔軟な材料であるにもかかわらず、金属をも凌駕する強靭性を有している。繊維強化ゲルのタフネス(破壊に必要なエネルギー)は、ゲル単体の100倍、織物単体の25倍にもなり、両者の性質の相乗効果によって極めて強靭化している。また、複合にゲルではなくゴムを用いることで、強靭な繊維強化ゴムを合成することも可能。

 

人工靱帯・腱や服飾に利用

得られた材料は、超強靭なゲルシートとして、人工靱帯・腱など生体材料や服飾用途への利用が可能と期待される。今回の研究成果は、「柔軟な複合材料」という新規材料分野の開拓につながるもの。

昨今、環境や社会に優しい材料の創出に向けて様々な取り組みが行われている。中でも、多種の素材を組み合わせて得られる複合材料は、互いの長所を併せ持つ優れた材料として期待されている。例えば、軽量なプラスチックを引っ張りに強いガラス繊維や炭素繊維と複合させることで、繊維強化プラスチック(FRP)を得ることができる。FRPは、プラスチックの軽量さ、しなやかさと繊維の硬さ、強さを併せ持った軽くて丈夫な材料で、金属に代わる次世代の構造材料として大きな期待を寄せられている。スポーツ用品、船体、自動車部品などのほか、近年では飛行機の主翼にも使用され、これによって飛行機の軽量化と燃費の大幅な向上が実現された。

一方、ハイドロゲルは網目状につながったポリマーが多量の水を含んだゼリー状の物質。われわれ人間のからだは60%が水で構成されていることから、水を含んだハイドロゲルは生体となじみが良い材料として特に医療面から期待されており、人工組織、再生医療の基材など医療材料としての用途が広く検討されている。

また、ハイドロゲルはその大部分が水で、資源の面から環境に優しい材料でもある。しかし、従来のハイドロゲルは水を大量に含んでいるためにもろく、実際の材料としての使用はコンタクトレンズなどごく限られたものを除き困難だった。

龔教授らの研究グループは、新たなハイドロゲルの強靭化手法として繊維強化プラスチックの手法に着目し、ゲルと繊維の複合による強靭化に挑戦した。その中で、ゲルマトリックスとしてポリアンフォライトゲル、強化材としてガラス繊維からなる織物を用いた場合に、未だかつてないほど丈夫な柔軟材料「繊維強化ゲル」を得ることができた。

 

省資源からも注目

この繊維強化ゲルは、ガラス繊維の織物をゲル化溶液に含浸させ、重合するというシンプルな合成法で得ることが可能で、合成に複雑なプロセスを必要としない。自由に曲げられることのできる柔軟性を保ちつつ、驚異的な超強靭性を持つ、かつてない性質を有する材料。また、水が40%も含まれていることから、省資源の面からも注目すべき材料だと言える。

また、高信頼性・耐久性の柔軟材料として多様な応用が期待されている。例えば、人工靱帯・腱など、極めて強い力がかかる生体組織の代替材料、丈夫な柔軟シートとしての服飾、工業用材料などの用途が考えられる。今回の研究で発見した「繊維強化ゲル」の高靭性原理をゴムなど他のソフトマテリアルに適用することで、既存のゴムを凌駕するしなやかでタフな税量創製が期待される。