東京大学医学部附属病院精神神経科の近藤伸介助教らの研究グループはこのたび、重度の精神疾患の患者について、一般の人よりも20年以上短命であるという調査結果を発表した。これまで国内では精神障害者の死因に関する統計がなかった。成果は英国の「British Journal of Psychiatry Open」(オンライン版)に掲載された。
調査は、重度の精神障害者の退院促進、地域生活を後押しする東京・三鷹市の巣立ち会と共同で実施。精神病院で長期の入院を経て、1992年から2015年末までの間に退院・地域に移行した254人のうち、死亡した男性31人・女性14人の計45人(平均50歳)について、早期死亡で失われた寿命を示す「損失生存年数(YLL)」を分析した。対象者は、統合失調症や双極性障害、うつ病など、全員が慢性精神疾患を患っており、精神病院に1人あたり15.6年間入院していた。
それによると、平均の死亡年齢は63歳(男性63.2歳、女性62.6歳)で、平均余命は、一般の人よりも22.2歳(男性20.5歳、女性26歳)短かった。主な死因はがんや心血管疾患、自殺で、身体疾患によるものが33人と、全体の73.3%を占めている。突然死は15人(33.3%)で、死亡時に立ち会う人がいなかったケースは12件にのぼった。
42人(93%)は独居か援助付きの住居に住んでおり、39人(87%)は生活保護か障害年金のいずれかまたは両方を受給している。さらに、27人(60%)は糖尿病や高血圧といった慢性疾患を抱えており、精神科以外の医療機関を受診していた。また、死亡時に喫煙していた人は22人だった(49%)。
■ 身体と精神医療の相互支援が鍵に
調査結果に対し研究チームは、「精神障害からのリカバリーを目指す人には、身体的疾患を持つ人が多いことがわかった」と指摘。研究が小規模で、早世したケースカバーできていないとしつつも、「日本のように身体医療と精神医療が二分されている国では、双方のコミュニケーションを推進し、重度精神疾患をもつ人の身体的ケアを向上させるために、強いリーダーシップが必要だ」としている。