熊本大学薬学部と海洋研究開発機構(JAMSTEC)・海洋生命理工学研究開発センターは、深海微生物が生産する創薬シーズなどの生理活性物質の探索研究を推進することを目的とした連携協定をこのほど締結した。今後、共同で(1)学術、科学技術及び医療技術の知見に関する交流と活用、(2)深海生物・深海微生物を活用した医薬品などの開発、(3)深海生物・深海微生物の産業利用、(4)学生の教育、(5)研究者の交流に取り組む。

熊本大薬学部は、宝暦6年(1756年)に開設された細川藩の薬園「蕃滋園」を源流とする国内で最も歴史ある薬学教育・研究機関のひとつ。

これまでに咳止め薬アスピリンの開発、医薬品の可溶化・安定化におけるシクロデキストリンを用いた製剤技術の開発など創薬における重要な貢献のみならず、人工甘味料チクロの体内分解の発見をはじめとする化学物質の安全性に関する研究でも優れた業績を上げてきた。

さらに、熊本大においては、今年度から文部科学省地域イノベーション・エコシステム形成プログラム支援対象地域に採択され、有用植物及び海洋微生物に由来する天然化合物を活用した創薬産業のイノベーション創出に向けた取り組みを進めている。

JAMSTEC海洋生命理工学研究開発センターでは、生物が深海の過酷な環境に適応する過程で獲得した独自の生存戦略を解明することで新たな「知」を創造するとともに、産業界や大学、各種研究機関と密に連携し、これらの「知」に基づくイノベーションの創出を目指した研究開発を行っている。

その一環として平成26年度より試験的に行ってきた事業の成果をもとに昨年9月に「深海バイオ・オープンイノベーションプラットフォーム」を設立し、オーブンイノベーション体制による深海微生物資源の開発を進めている。

 

深海微生物の創薬 ポテンシャルを明らかに

目に見えない小さな微生物は新たな医薬品開発の源として大きなポテンシャルを秘めている。例えば川奈のゴルフ場近くの土壌から分離された微生物が作り出す物質をもとに開発された医薬品「イベルメクチン」は、毎年約2億人余りの人々に投与されて中南米・アフリカの風土病撲滅に大きく貢献しており、発見者の大村 智北里大特別栄誉教授には2016年のノーベル医学・生理学賞が授与された。

しかしながら深海に生息する微生物が作り出す生理活性物質に関する科学的知見は、世界的に見ても非常に乏しいのが現状。

このため、JAMSTEC海洋生命理工学研究開発センターでは、深海バイオ・オープンイノベーションプラットフォーラムの事業として、有人潜水調査船「しんかい6500」などを用いて深海から採取した堆積物や5000株以上の深海微生物の分離株、深海環境ゲノム情報などの貴重な深海バイオリソースを大学などの研究機関や民間企業に提供し、創薬などの産業ポテンシャルを広く探索する取り組みを進めている。

今回の連携によって、熊本大薬学部が保有する生理活性物質・創薬リード化合物の探索技術基盤と、JAMSTEC海洋生命理工学研究開発センターが保有する深海微生物に関する知識基盤のシナジーにより、未だ人の手がほとんど及んでいない深海に生息する微生物が持つ創薬ポテンシャルが明らかになることが期待される。

また将来的には研究成果を基にした医薬品の開発など、深海微生物の新たな産業利用に向けた取り組みも行う予定。